43 / 62

第43話

流れてくる泡をすくい、改めて頷く。 「何か結局色々質問攻めしてごめんな。でも応援してるからさ、頑張れよ」 都築の頭に手を置き、流希は浴槽から上がった。サウナ室のドアを開け、中に声を掛ける。 「世喜さん、そろそろ出ようよ。アイス食べ行こ」 「ふー……そうだね」 世喜は満足したようにサウナ室から出て、景と都築に振り返った。そして含みのある笑みを浮かべ、軽く手をかざす。 「話してくれてありがとう、景くん。ここで言うのもなんだけど、末永くお幸せにね」 「都築ちゃん、何かあったら俺の仕事用メールから連絡して! ホームページ見れば分かるから! じゃ!」 二人はそれぞれ告げると、ワイワイ楽しそうに話しながら去っていった。 「彼ら、ほんと楽しそうで良いですよね。あまりカップルって感じしないけど」 「子どもと保護者だな」 景は水風呂から出て、今度は都築の隣に腰を下ろした。 どこかスッキリした様子の景に、都築は身を乗り出す。 「景さんは嬉しそうですね。世喜さんと何のお話してたんですか?」 「……大したことじゃない。お前は流希と何話してた?」 「俺は……ええと、景さんと逢ってからのこととか。あ、付き合ってることは言ってませんよ! 命懸けます!」 「言っても構わない。そもそもバレてるんだろ?」 「いっ。知ってたんですか?」 都築が身を縮めると、景は笑った。 「あの二人、そういうことに目敏そうだからな」 「で、ですね。俺なんて全然分からないのに……やっぱり俺、経験なさ過ぎてやばいですかね」 気まずそうに口元に手を当て、都築は顔近くまで湯船に沈める。 景はそれを見て、視線を前に移した。 「お前は今のままでいい」 「でも、鈍感過ぎて腹が立つ時とかありません?」 「……」 あまりに彼が心配そうに言うので。 部屋に戻ってすぐ、景は都築を思いきり抱き締めた。 「景さん……」 ベッドに乗り、互いの首筋や胸に愛撫する。感覚としては、猫の毛繕いに似ていた。そのまま雪崩込み、ついばむようなキスを交わす。 「……やっとこういうことができるな」 「あはは。外は人目ありますもんね」 ルームウェアの上着をはだけ、都築は笑う。その表情、仕草全てが愛おしくて、仰向けに押し倒した。 「明日からは純粋に旅行を楽しむぞ」 「は、はい」 「行きたいところがあったら言え。スケジュール詰めてても回るから」 都築を潰さないよう、膝を立てて覆い被さる。すると彼は逡巡した後、視線を逸らし、恥ずかしそうに呟いた。 「たくさんあります。けど……もう少し、キスしたい。です」 「……」 おずおずと見上げる彼の頬に手を添え、喰らい尽くすようにキスした。 淫らな水音。欲望に従い、擦り寄る姿。 主が見たらどう思うだろう。ふと頭によぎり、皮肉に考える。そういえば、前世でキスよりすごいことを彼としていた。 彼は忘れてるかもしれないが────。 景は衿元を緩め、都築の上体を起こした。無我夢中で自分の胸に縋り付き、必死に呼吸するかのように唇を吸う都築。 こんないじらしい恋人が存在してることが、時々夢ではないかと思ってしまう。 都築と再会してから、全ては夢想のように感じる。 でも、確かにここにいる。触れられて、温もりを感じられる。 そして触れるたび、絶対に手放したくないと強く願うのだ。 「都築。俺は……前にも言ったが、平坦な人生を送ってきた」 額におまじないのようなキスをし、彼と視線を合わせる。 「世話焼きな姉と、放任な両親の元で育った。大きな成功はないけど、大きな挫折もない。人生の合間にお前を捜してたんじゃなくて、お前を捜す合間に鏑木景という人生を送った」 仕事だけは必死に取り組んで、スケジュールを自分で組み立てられるよう調整し、準備し、独立した。しかしそれ以外でそこまでの情熱をかけたものはなかった。 「お前ありきの人生なんだ。つまんない男だろ」 「……何言ってるんですか」 都築は大きな瞳を揺らした後、困ったように笑った。 「そんなこと言われて、喜ぶなって方が無理です」 手のひらが重なる。遠い昔、同じ床で寝た時のような、大胆さを感じる動きだった。 「というか、そこまで景さんを狂わすことができてたんだ。って思ったら、マジで自惚れそうです。……うわ、やばい」 後からじわじわ来たのか、都築はガバッと正座して顔を覆った。 「興味ないどころか、本当に嫌われてるかもって思ってたから。俺は楽しかったけど、景さんは主様と俺と一緒にいて、本当に幸せだったのかな、って……いつも考えてました」

ともだちにシェアしよう!