46 / 62
第46話
食事を終えて、お店が建ち並ぶ通りを散策する。お土産も探しながら、景さんと買い物を楽しんだ。
「さすが、龍をモチーフにしたグッズがたくさんありますね」
「だな」
そのとき、雑貨屋で可愛い龍を刺繍した小銭入れを見つけた。
「景さん、俺このお菓子買ってきますね」
彼が頷いたので、お菓子と、その下にこっそり小銭入れを持ってレジへ向かう。会計して戻ると、景さんは二枚貝の小物入れを手に取っていた。
「あ、綺麗ですね。中がきらきらだ」
「欲しいか?」
「いやいや、景さんが使うなら俺が買いますよ!」
と、何故か目の前で買う買う問題に発展した。
「……俺も、お前のブレスレットを入れられるものを用意してやりたくて」
「景さん……」
うは、どうしよう。
不意打ち過ぎて嬉しい。「いや~……でも悪いですし……」と言ってる間に、彼はレジへ向かっていた。
行動早いな。内心感心しながら、外のベンチに腰を下ろす。
「ほら」
「わぁ……! ほ、ほんとに良いんですか?」
「使って、時々今日のことを思い出してくれたら嬉しいよ」
景さん……。
やばい。時々そういう可愛いことを言うから、ほんと反則だ。
「ありがとうございます! 大事にします!」
家に帰ったらすぐ、ブレスレットを入れよう。
「景さんにプレゼントもらったの、初めてです。嬉しい……」
「確かに全然用意してなかった。ごめんな」
「何言ってるんですか! いつもご馳走してもらってますし、この旅行がプレゼントですよ!」
慌てて隣に身を乗り出し、頭を下げる。
割れないよう、元の梱包に入れてサコッシュに仕舞った。
「景さん、そういえば俺もお渡ししたいものが」
「お前はプレゼント用意し過ぎじゃ……」
「でも、可愛かったんでつい」
お菓子を入れた袋から、先程の龍の刺繍の小銭入れを取り出した。
「主様みたいじゃないですか?」
「……姿を見たことはないけどな」
景さんは眉を下げながら笑った。
彼の言う通りで、俺達は主様の御姿を直に見たことはない。常に滝の裏、もしくは表から、滝面に映り、うごめく大きな龍の影を見ていた。
声を聞くことはできるが、主様は不可視の存在。俺や景さんのような人間には、触れることはおろか視ることもできなかった。
「主様がいたら、きっとこれぐらい綺麗で可愛いです」
「……そういうことにしとくか」
景さんは龍の刺繍を指でなぞり、くくっと笑った。
「じゃあ俺は、これを主とお前だと思って持ち歩くよ」
ありがとう、と言って彼は微笑んだ。
これもある種、御守りなのかもしれない。彼の手を取り、立ち上がって笑った。
「本当、面白いものがいっぱいありますよね」
「あぁ」
「これ何だろう?」
カラフルで可愛いパッケージの箱が並んでいた為、つい手に取る。俺は裏を見るまでそれがなにか分からなかったが、景さんは気まずそうに囁いた。
「……おい、それコンドーム」
「すみません」
すぐに商品を戻し、何事もなかったように歩き出す。
景さんも軽く咳払いして隣に並んだ。
ひえぇ……店先に堂々と置いてあるから油断してしまった。
でも、そういえば。俺達はもう恋人同士なんだし、“そういう”ことをしてもおかしくない。
景さんはどう思ってるんだろう。
一歩後について、彼の横顔を盗み見た。
俺と、そういうことをしたいって思ってくれてるのかな。
一度浮かんだ疑問は中々払拭されず、ホテルに戻っても顔は熱いままだった。
「景さん、ビール冷蔵庫に入れておきますね」
「あぁ」
部屋で飲む用のお酒とおつまみを片付けながら、お土産も整理する。
「俺荷物まとめてるので、お風呂お先にどうぞ」
「分かった」
今日のホテルは大浴場はないので、部屋のシャワールームで済ます予定だ。彼は頷き、タオルとガウンを持って行った。
「……」
ここでまた、あの一件を思い出してしまう。
旅先でシャワー。って、そういう流れに入るにはピッタリなのでは?
ともだちにシェアしよう!

