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第5話 先輩くんが人質に。
どうしてこの人は、こんな感じなんだろう。
「とにかく座って。消えなくていいから」
促されて、仕方なくもう一度座る。もちろん先輩からはかなり離れて。
「……でも、気持ち悪いですよね、この世で一番気持ちわるい現象はなにかって言ったら、先輩のミニチュアを作って疲れた時にちょっと眺めたりしてる気持ち悪い後輩の、気持ち悪い意味分かんない行動が一番……っ」
「まあまあ。もう、マジで――待てって」
不意に、先輩は手を伸ばしてきて、咄嗟に殴られると思ったオレの、頭に。
ふわ、とした感触。その後、クシャクシャと優しく撫でられ……た?
「よしよし。落ち着けよ。平気だから」
「……っ? ……っ??」
落ち着くなんて、一生かかったって無理だ。
先輩が撫でてくれた?
先輩が。
は? なにこれ。
オレ、今死んでもいいかも。
頭を撫でられるのが終わっても、オレは、ぎゅう、と太腿の上で手を握ったまま、固まっている。
「ていうか、これってプロレベルじゃない? うますぎるんだけど、なんで?」
嫌とか気持ち悪いとかは、先輩の口調からは確かに感じない。
本当にただ、純粋に質問されてる感じ。
オレは先輩の顔を少しだけ見て、それから俯き加減で話した。
「小学生の時に、妹にフェルトのおにぎりを作った以来の、ガチな趣味で……高校も、手芸部でした」
もう隠すのはやめよう。手芸部も誰にも言うつもりはなかったのだけれど。
だって、一番気持ち悪いとこ、もう知られてるし。
正直に伝えると。
「へー、趣味の域は越えてるよね。すごくない、これ。売れると思うんだけど」
「…………」
……褒めてくれている?? 気持ち悪がるどころか?
頭の中が?で埋め尽くされている気がする。
そんなことがあっていいのだろうか。
「オレ、これ、好きだなぁ。今まで見てきた、こういうぬいぐるみの中で一番可愛いと思う。もっと作ってるの? オレの別バージョン、あったりする?」
「えっ?」
「作ってないの? これだけ?」
別バージョンが合っても良さそうな口調……だが、そんなはずはないよな。とりあえず、一体だけにしておいてよかった。
「先輩は、一体だけです。あとは、他はいろいろ……妹に作ったのとか、部活で作ったのとかありますけど……」
「えー、見たい!」
「……え。見たい、ですか?」
「うん。可愛いんじゃないの?」
先輩が、めちゃくちゃにっこり笑った時。
昼休みが終わる、予鈴が鳴り響いた。
……そうだ、今、昼休みだったんだ。もう、永遠につづく地獄かと思っていた。
「なあ、宮瀬」
「はいっ」
「黙って作ってたのは良しとするから、その代わりさ、他のも見たい」
「えっ?」
「宮瀬って、一人暮らしだったよな」
「あ、はい」
「今日、暇?」
「はい。……え?」
立ち上がって、クスッと笑う先輩の顔を、呆然と見守る。
「今日、行ってもいい?」
「どこに……ですか?」
「宮瀬んち!」
「……えっ??」
「やっぱり急には、ダメ?」
「いい、です……けど……?」
「やった。決まりな」
訳が分からないままに頷くと、先輩は、キラキラの顔で微笑んだ。
頭がついていかない。
これは……現実か?
だって、さっきまで地獄で、オレはもうここから消えなきゃって、思ってたのに。
――なんで、こんな展開になってるんだ??
「宮瀬、今日何限まで?」
「ご、五限、ですけど」
「オレも。じゃあ、終わったら正門のとこで」
先輩は、自分の手の中の「先輩くん」をきゅ、と握って見つめてから、オレを見て笑った。
「それまでこの子、人質な? あとで返してあげる」
「えっ……」
「じゃあ、あとでな? オレ、次の校舎遠いから、先に行くから」
バイバイ、と明るく手を振って、先輩は、あっという間に走り去っていった。
その後ろ姿が消えていくのをただぼんやりと見送って……オレは、「え?」と声を出した。
なんだ、これ?
今、夢でも見てたのかな、オレ。
先輩がうちに来る??
キラキラの笑顔の先輩が視界に残ってる。
夢ても見てるのだろうか?
これは、オレの、妄想の世界なのかな?
でも、さっきまで居た「先輩くん」がオレの手の中に居ない。
先輩本人に、人質に、連れ去られてしまったみたいだ。
……現実なのか?
◇ ◇ ◇ ◇
8/24。12時~18:59まで
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