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第13話 オレに頼みたいこと?

「陽彩先輩、私、陽彩先輩、めっちゃ好きです」 「えっ。ああ、ありがと」  結愛は嬉しそうに話し続ける。 「お兄、ほんと、ひっそり良い人なんです。私、お兄と同じ学校なんですけど、遠くてめんどくさいごみ捨て、何度も行ってるの見かけて……いじめられてるのかと思ったら、自主的にやってたみたいで。なんかそういうのがいっぱいあって、損してる気がするんですけど、それでいいみたいで」 「何の話、してるんだよ、結愛」  余計なこと言うなよ、と思っていると、先輩が楽しそうに笑った。 「宮瀬っぽい。分かる」 「そうなんですよ~。私、この話、初めて人と共有できました! 嬉しい」 「はは。オレも、なんか嬉しい」 「私がお酒飲めたら、今日は飲んでとことん話そうって言うところですよ」 「結愛はもう、おっさんなの?」 「ちょっとお兄、黙ってて」  軽くあしらわれて黙るオレに、先輩はクスクス笑ってる。 「結愛ちゃん、麦茶で乾杯しよ。あ、そうだ。デザート買ってきたんだよね」  先輩のその言葉で、コーヒーゼリーとプリンをどう分けるかの話になり、結局、結愛がアイスを見つけてきて、丸く収まった。たまに食べてるのに、いつもより甘く感じて不思議だ。  その時、先輩のスマホが震えた。画面を見た先輩は「今はいいや」とそのままにした。 「いいんですか?」 「多分さっき断った集まりだと思うから。今日ここに泊めて貰うから行けないし」  その一言に、行かないでくれるんだ、と嬉しくなる。  やがて、震動音が消えたと思ったら、しばらくして、ぶ、ぶ、と短い震動。何かメッセージが来てるみたい。 「先輩、モテそうですよね」  ふふ、と結愛が笑う。 「誘われること多くて、大変そう」 「まあ誘われるけど――べつに、オレが居なくても、変わらないし」  ふと、そんなことを言う先輩。――そんなことは無いと思う。  先輩が居ると居ないとでは、オレのサークルの楽しみや、幸せ度が大分違う。  居てくれるだけで、話さなくても、なんか心強くて、安心する。  先輩のことをそう思ってる人、絶対何人もいると思う。  何と言っていいか分からずに黙っていると、先輩がふと、オレを見た。 「うちのサークルさ、結構人数多いでしょ。派手で騒がしい奴も多いしさ。宮瀬が好きなもので癒されたいって気持ちは分かったし。そのぬいぐるみ、すごく可愛いし。そういうの作るの好きな宮瀬が、それでほっこりしてるの、納得」  そんな風に言ってくれる先輩に感動している横で、「ちなみに」と結愛が話し始める。 「お兄はサークルだけじゃないと思いますよ、疲れるの。人とうまく話せない時に疲れるみたいなので」 「……よけいな補足しないで、結愛」  まあ確かにそうだけど、なんかそれだと、社会に適合してないみたいな……。苦笑してしまうと、先輩がパッとオレに視線を向けた。 「じゃあ、オレとも疲れてる?」 「え。いえっ」  オレは即座に首を横に振った。そんなわけは、無い。 「先輩と話すのは、楽しい、です」  即座に否定すると、先輩は「良かった」と微笑んだ。  先輩と話すのは楽だ。はじめて会った時から、そうだった。  気持ちがふわっとして、楽しい。  ドキドキはするけど、疲れるとかとはまた別の話。そこまでは言えないけど。  でも、良かったと言ってくれたのも、なんだか嬉しい。 「――あのさ、宮瀬。オレ、頼みたいことがあるんだ」 「オレにですか?」 「うん、宮瀬に」  頼みたいこと? なんだろ?  先輩は少しだけ間を置いて、意味ありげに笑った。 「……宮瀬にしか頼めないことなんだけど」  ……そんなこと、なにかある?  思わず結愛を見ると、結愛もきょとんと、首を傾げていた。

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