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第14話 先輩に頼られるって
「――あのね、オレ、実家の近所に従姉妹がいるんだ、小学生の女の子」
「……はい」
何の話が始まったんだろう? と思いながら、ふふ、と緩んだ先輩の顔を見つめる。
「その子が、再来週、誕生日でさ、何が欲しいか聞いたんだよ。そしたら」
意外なことを言い出した先輩は、スマホを操作して、「これなんだけど」と画面を向けてきた。昔、結愛が好きだった、女の子が戦うアニメの主人公みたいなキャラが映っていた。
「これのぬいぐるみが欲しいって言われたんだけど、なんかすごく小さいのしか無くてさ。ちょうどだっこできる程度の大きさのが見つからなくて困ってたんだよ」
「あ、なるほど……」
「材料費とか、手間賃とか全部出すから……」
先輩がすがるような顔で、オレを見つめてくる。
……うぅ。なんか、すげー可愛いんですすけど、この人。どうしたら……。
狼狽えて答えることができず困っていると、結愛が「作ってあげなよ、お兄」と声を出してくれた。ありがと、結愛。
「お兄の得意分野じゃん! てか、お兄にしかできない、ほんとそう」
「オレにしかできないってことはないと思うけど……」
できる人はいるとは思うんだけど。すると、先輩は小刻みに首を横に振ってる。
「オレの周りには、宮瀬しか居ない。市販のものだと小さくてさ。あと、なんか固そうで。もっとふんわりしたのが好きそうなんだよ。無かったら、別のでも良いって、従姉妹のお母さんは言ってるんだけど……」
「いいですよ。さっきの、作りかけみたいな感じのでいいんですか?」
「うん。あれ見た時、こういうのだよなぁって、思って……いいの?」
先輩、めちゃくちゃ嬉しそうな顔をした。こっちまで嬉しくなって、はい、と頷く。
「いつまでにですか? 再来週の?」
「来週末までに出来てたら……そんなに早く、できるもの? ネットですぐ買えると思ってたら無くて、焦ってて」
「全然大丈夫ですよ」
「宮瀬……! ありがと……!」
先輩がキラキラウルウルな感じでオレを見つめてくる。
女子から見たら、この人、めちゃくちゃカッコいい人だと思うんだけど。……なんか、こういうところ、すごく可愛く思えて。
ふ、と笑ってしまった。
「予算、五千円くらいかなって思ってたんだけど……足りる?」
「お金いらないですよ。お世話になってるので。もう一度写真見せてもらっていいですか?」
「うん。これ」
何枚か画像を見て、キャラの作りを眺める。
下絵を描くとして、顔は、髪は……と、もうすでに作りたいモードが発動してる。
「ちゃんと請求してよね? いくらくらい、かかる?」
「フェルトとか、家にある布の端切れで作れば、材料費なんて千円とかです。千円もいかないかも」
「えっそうなの? でもぬいぐるみって結構高いけど」
不思議そうな先輩に、大丈夫です、と呟いて、スマホを返した。
「高いのは、材料費以外のところなんでしょうね。でも、こだわればこだわるだけ高くなりますよ。良い布とか、もう馬鹿高いんで」
「あ、八歳だからさ、そんなに質は求めないかな」
「じゃあ、オレが持ってる布で作れると思います」
オレは立ち上がり、自分のスマホを鞄から取り出す。通知画面に結愛からのがたくさん並んでて、苦笑してしまう。
「ほんとだ、結愛からすごい連絡来てた。ごめん」
「いいよ。先輩にバレて、それどころじゃなかったって分かったし」
「……」
黙ったオレに、先輩が「おもしろ……」とクスクス笑っている。
今のキャラの名前を入れて、画像で検索する。
「先輩、これ、顔はどんな感じがいいですか? 表情とか」
表示された画像を先輩に見せていたけれど、少しして先輩はオレを見つめてきた。
「宮瀬にお任せしていい? 宮瀬が可愛いと思う感じで」
「いいんですか?」
「オレ、よく分かんないし。プロにまかせる」
「プロじゃないですけど」
苦笑していると、横で、結愛が、ふふっと笑ってる。
「とりあえず五千円予算。出来上がったら渡すね」
先輩の言葉に、即首を横に振る。
「だからいらないですって」
「せめて材料費だけでも」
「じゃあ千円で」
先輩が「もー」という感じで空を見上げて、ふっと笑った。それからまっすぐにオレを見つめてくる。
「宮瀬の手間賃こみにしてよ。こんなの買ったら、絶対高いし」
「オレは作るの楽しいので、ほんとにいいですよ。可愛いの作るので任せてください」
なんだか楽しくなりながらそう言うと、先輩は、オレをじっと見つめてくる。
「何ですか?」
「なんか、さっきから宮瀬が頼もしく見える」
「……そうですか?」
なんだか照れて、言葉少なに聞き返す。
先輩に頼られるとか……ぬい作ってきて、本当に良かった。
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