16 / 59
第16話 ちくちく。
「お兄、作るの早いから、単価安くしても全然いけそうな気がします」
「あーそうなんだ。型紙とかとっちゃえば、もう楽なのかな?」
「はい! まあ私は作れないですけど。あはは」
「そうなんだ。難しいよね」
……なんだか本当に、楽しそうだな。
ぬいの下絵を描いて、洋服はどの布にして、髪は……と箱を漁ってると、結愛が「お兄」と呼んだ。
「ん?」
顔を上げると、二人とも、ものすごく、にこにこしている。
「どうしたの?」
「あのさ、お兄のスマホで、SNSのアカウント、作ってもいい?」
「オレ、SNSとかやる気ないけど」
「んー、ちょっと写真載せるくらい出来るでしょ? 可愛いぬいの写真のアップとかさ? 私もいろいろ手伝うから」
「んー……いいけど、写真の位置情報とか、個人情報とか気を付けられる?」
オレが言うと、結愛は、任せて、と得意げに笑う。
「大丈夫、元々やってるし。そういうのはめっちゃ気を付けてるよ」
「じゃあ、まあ……ぬいをのせるくらいならいいけど」
「ねえ、ついでに、販売できるサイトのアカウントもつくっていい?」
ほんとに売るつもりなのかな、とあまり乗り気ではないオレは、ちょっと色々考えてみる。
「いいけど……あれだよ、アニメのキャラとかは売れないからね?」
「知ってるよ。お兄のオリジナルの子たちしか出さない」
「既約とかも、ちゃんと読んでからだからね」
そう言うと、結愛の隣で先輩が笑い出した。
「宮瀬っぽい」
「……そうですか?」
何をもって、オレっぽいと言ってるのだろう? と思った瞬間、「ですよね」と結愛も笑う。
「大丈夫、一緒にいろいろ見て、良さそうなところ選ぶから」
先輩まで乗り気になって、スマホでいろいろ調べながら結愛と相談し合っている。
謎すぎる……。
まあ、いいか。二人、楽しそうだし。そう思っていると、結愛が声をあげた。
「あっ! フォロワーが一人ついた! でも鍵垢だね。Rayさんだって。良かったね、お兄。あ、私もフォロワーになっとこ」
「ふふ。いいね」
楽しそうな二人。――なんか、コミュ力高い人達って、まるで前から知ってるみたな感じで話せるんだなあ。
その時、ふっとあることが頭をよぎった。
……先輩と結愛が付き合う、とかなったら?
布に触れる手が止まった。
……結愛は良い子だし。先輩も良い人だし。
この二人が付き合ったら、美男美女カップルって言われるだろうな。
二人が結婚したら、先輩と兄弟か。
……って、何考えてんだ、オレ。アホか。
なんでこんな想像してんだ。
反省してるオレの向かい側で、先輩と結愛は、スマホを覗き合いながら楽しそうに話している。
傍目に見ても、距離が近い。
……なんでだろ。ちょっとだけ、その間に割り込みたいような。なんだろう、これ。
二人が仲良くなるのは嫌なはずないのに――胸の奥が、そわ、と揺れた。
なんだかモヤモヤ痛いような。胸の奥が、針でちくちく刺されたみたいな。
――落ち着かない。
オレは型紙を切る手を止めて、二人にまっすぐ視線を向けた。
「……今、何してるの?」
遠慮がちにそう聞くと、二人はそろって顔を上げた。
「今は販売サイト、宮瀬のプロフィールを考えてるとこ」
「お兄、男って書いた方がいいかな? 性別には触れないほうがいいか、どっちかなあ」
「んー……そういうの、たくさんの人が登録してるから難しいと思うけど」
そう言って、少し止めにかかってるんだけど、結愛には響かない。
「別に、失敗したって、お金かかる訳じゃないしさ。やるだけやって、だめだったら、また次、でしょ?」
「あ、いいこと言うね、結愛ちゃん。ほんと、そうだね」
結愛の言葉に、先輩も、うんうん頷いている。
ポジティブな人達の考えだな。まあいっか。任せて、ダメだったらその時か。
「お兄、お嫁に出しても良い子が居たら、写真とるから貸して」
「んー……お嫁……」
言い方に笑ってしまいながら、いくつかのぬいを結愛に渡す。
「わー可愛い、ね、先輩」
「うん。可愛い。うさぎ? すげーモフモフしてる。フェルトじゃなくて、こういうのも作るんだね」
ほんと二人、めちゃくちゃ楽しそうに撮影会を始めてる。
ともだちにシェアしよう!

