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第17話 BL目線の、エール

 しばらく集中して作業をしていたら、結愛が「お兄」と呼びかけてきた。 「ん?」 「私、お風呂入ってこようかと思ったんだけど……やっぱり、お客様が先だよね」 「そうだね――先輩、良かったら先に、お風呂どうぞ」 「あ、いいの?」 「シャワーだけでいいですか? お風呂入りますか?」 「ううん。シャワーでいいよ。ありがと」   部屋着やバスタオルを渡して、先輩をバスルームに案内する。  戻ると、結愛が「お兄お兄」と手招きしている。 「なに? つか、結愛って、ほんと人と仲良くなるのうまいよね。感心する」  そう言うと、結愛はオレの顔をじっと見て――ぷっと笑った。 「お兄、ヤキモチ?」 「何言ってんの、ちがうよ」  心の中を見られたような……。  笑い飛ばそうとしたのに、妙に図星を刺された気がして、言葉に詰まる。  結愛は、ふふ、と意味ありげに笑った。 「お兄って、めっちゃ先輩のこと好きでしょ」 「……っだから、憧れて」 「恋じゃなくて?」  その言葉に、一瞬真っ白。  固まってるオレに、結愛がクスクス笑い出した。 「お兄、私の秘密の趣味、知ってるよね」 「――知ってるけど」 「ふふ。昔からずっとBLが好きだったけど、まさかお兄で摂取できるとは思わなかったな~!」  ……そうだ。結愛の、他人には秘密にしてる趣味。  BL漫画や小説が大好きなんだよな。特に、青春ものは中学の頃からずっと推している。 「結愛――オレから摂取、しないこと!」 「ええー。だって、先輩、めちゃくちゃカッコよくて可愛くて…………あれ?」 「ん?」 「どっちが攻め? ……いたっ」  思わず、ぽこ、と持っていた型紙を丸めたやつで叩いてしまった。 「オレは、ほんとに憧れててさ……これがもし、恋だとしても」 「なるほど、まだ分かってない感じかぁ」  ふむふむ、と頷いてる結愛をちょっと睨んでしまう。 「もし千歩譲って、これが恋だとしても先輩は違うから。変な風に考えるなよ」 「変な風にって?」 「だから……めちゃくちゃ女の子にモテる人なんだよ。分かるでしょ」 「まあ分かるけど……」 「皆の人気者で、サークルに居る時は、あんまり近づけないくらいだし」 「ふうん……」 「あんな人を好きになってもちょっと辛いし」  そこまで聞いていた結愛は、突然、はっ!とした顔で、口を覆った。 「えっ。そういえば、今私、普通に聞いちゃってたけど……!」 「? なに?」 「お兄って、ゲイなの……??」  今更か。  ……しかも、なんか、キラキラしてる……。 「結愛……普通、兄がそうかもってなった時、その顔、する?」 「普通なんて別にどうでもいいもん。その人が楽しい方がいいじゃん。ていうか私はお兄が、幸せなのが良い」 「――――」 一瞬、息が止まった。 真っすぐすぎるその言葉に、胸が熱くなってしまう。 「……ありがと」 「うん。ふふ」 笑顔で頷いた結愛が、まっすぐオレを見てくる。 自分でも驚くくらい、声がやわらかくなっていた。 「オレも。オマエの幸せ祈ってるよ」 「うん。ふふ。いつか、告白とかはするのかな?」 「……だからまだ分かんないし。もしそうでも、しないよ」 「そうなの?」 「断られたら、気まずくなっちゃうでしょ。オレはそれは嫌だな」 「なんで断られる前提?」 「え、逆に受け入れられると思ってるなら、すげー不思議なんだけど」  そう言うと、結愛は一瞬固まった後、超苦笑いを浮かべた。 「お兄、外見は大分ましになってきたのに……中身はまだまだ後ろむきだね」 「いやでも、これに関しては、しょうがないでしょ」 「お兄はさ。優しすぎるというか……ひとのこと、考えすぎて、遠慮するし、言わないで終わらせたり……いいところかもしれないけど、もっと、積極的になってもいいと思うよ」 「結愛はほんと、なんかすごいなーといつも思う」 「まあ私、BLでかなり勉強してるからね!」 「……BLでなの?」 「そそ。切ない気持ちとかさ、遠慮しちゃうとかさ。男の子同士だからこその葛藤とか…あれがいいんだよね」 「漫画とか大好きだもんね」 結愛の部屋の本棚を思い出しつつ、はは、と笑うと。 楽し気に語る結愛を横目に、オレは麦茶をひと口。 この話になると、オレがあんまり反応できないのに、結愛は一人で永遠に話してる気がする。

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