17 / 59
第17話 BL目線の、エール
しばらく集中して作業をしていたら、結愛が「お兄」と呼びかけてきた。
「ん?」
「私、お風呂入ってこようかと思ったんだけど……やっぱり、お客様が先だよね」
「そうだね――先輩、良かったら先に、お風呂どうぞ」
「あ、いいの?」
「シャワーだけでいいですか? お風呂入りますか?」
「ううん。シャワーでいいよ。ありがと」
部屋着やバスタオルを渡して、先輩をバスルームに案内する。
戻ると、結愛が「お兄お兄」と手招きしている。
「なに? つか、結愛って、ほんと人と仲良くなるのうまいよね。感心する」
そう言うと、結愛はオレの顔をじっと見て――ぷっと笑った。
「お兄、ヤキモチ?」
「何言ってんの、ちがうよ」
心の中を見られたような……。
笑い飛ばそうとしたのに、妙に図星を刺された気がして、言葉に詰まる。
結愛は、ふふ、と意味ありげに笑った。
「お兄って、めっちゃ先輩のこと好きでしょ」
「……っだから、憧れて」
「恋じゃなくて?」
その言葉に、一瞬真っ白。
固まってるオレに、結愛がクスクス笑い出した。
「お兄、私の秘密の趣味、知ってるよね」
「――知ってるけど」
「ふふ。昔からずっとBLが好きだったけど、まさかお兄で摂取できるとは思わなかったな~!」
……そうだ。結愛の、他人には秘密にしてる趣味。
BL漫画や小説が大好きなんだよな。特に、青春ものは中学の頃からずっと推している。
「結愛――オレから摂取、しないこと!」
「ええー。だって、先輩、めちゃくちゃカッコよくて可愛くて…………あれ?」
「ん?」
「どっちが攻め? ……いたっ」
思わず、ぽこ、と持っていた型紙を丸めたやつで叩いてしまった。
「オレは、ほんとに憧れててさ……これがもし、恋だとしても」
「なるほど、まだ分かってない感じかぁ」
ふむふむ、と頷いてる結愛をちょっと睨んでしまう。
「もし千歩譲って、これが恋だとしても先輩は違うから。変な風に考えるなよ」
「変な風にって?」
「だから……めちゃくちゃ女の子にモテる人なんだよ。分かるでしょ」
「まあ分かるけど……」
「皆の人気者で、サークルに居る時は、あんまり近づけないくらいだし」
「ふうん……」
「あんな人を好きになってもちょっと辛いし」
そこまで聞いていた結愛は、突然、はっ!とした顔で、口を覆った。
「えっ。そういえば、今私、普通に聞いちゃってたけど……!」
「? なに?」
「お兄って、ゲイなの……??」
今更か。
……しかも、なんか、キラキラしてる……。
「結愛……普通、兄がそうかもってなった時、その顔、する?」
「普通なんて別にどうでもいいもん。その人が楽しい方がいいじゃん。ていうか私はお兄が、幸せなのが良い」
「――――」
一瞬、息が止まった。
真っすぐすぎるその言葉に、胸が熱くなってしまう。
「……ありがと」
「うん。ふふ」
笑顔で頷いた結愛が、まっすぐオレを見てくる。
自分でも驚くくらい、声がやわらかくなっていた。
「オレも。オマエの幸せ祈ってるよ」
「うん。ふふ。いつか、告白とかはするのかな?」
「……だからまだ分かんないし。もしそうでも、しないよ」
「そうなの?」
「断られたら、気まずくなっちゃうでしょ。オレはそれは嫌だな」
「なんで断られる前提?」
「え、逆に受け入れられると思ってるなら、すげー不思議なんだけど」
そう言うと、結愛は一瞬固まった後、超苦笑いを浮かべた。
「お兄、外見は大分ましになってきたのに……中身はまだまだ後ろむきだね」
「いやでも、これに関しては、しょうがないでしょ」
「お兄はさ。優しすぎるというか……ひとのこと、考えすぎて、遠慮するし、言わないで終わらせたり……いいところかもしれないけど、もっと、積極的になってもいいと思うよ」
「結愛はほんと、なんかすごいなーといつも思う」
「まあ私、BLでかなり勉強してるからね!」
「……BLでなの?」
「そそ。切ない気持ちとかさ、遠慮しちゃうとかさ。男の子同士だからこその葛藤とか…あれがいいんだよね」
「漫画とか大好きだもんね」
結愛の部屋の本棚を思い出しつつ、はは、と笑うと。
楽し気に語る結愛を横目に、オレは麦茶をひと口。
この話になると、オレがあんまり反応できないのに、結愛は一人で永遠に話してる気がする。
ともだちにシェアしよう!

