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第18話 一目惚れの暴露
「とにかくさ、お兄、遠慮ばかりしてちゃだめだよ? ねっ、時には、自分の気持ちを大切にね」
「……それって、先輩のことで言ってる?」
「全部に関して言ってるけど……でも、先輩のことも混ざってる」
その言葉の意味を考えて、分かった、と言った後、オレは、クスクス笑ってしまった。
「結愛ってほんと……妹とは思えない」
「でも私は、お兄は、ちゃんと、お兄ちゃんだと思ってるよ?」
「そう?」
「うん。頼れるお兄です」
「頼れるとこある?」
苦笑してしまうけど、うん、と結愛は笑う。
「それにしても、陽彩先輩、顔綺麗。尊いねぇ、近くで見てると、見惚れちゃう」
「結愛も可愛いけど」
「あ、褒められた」
うふふ、と笑ってから、結愛はオレを見つめてくる。
「お兄もこのまま、ちゃんといろいろ頑張って、カッコよくなってってね。あ、でも服買う時は、教えてね、変なの買わないでね」
どういう意味、と突っ込むのはやめて、はいはい、と笑ってしまう。
「でも良かったなぁ。お兄に好きな人ができて」
「だから。憧れだってば。サークルの勧誘で声かけられた時から」
「え、まさか、それで入ったの?」
しまった。そう思ったが、じっと見つめてくる大きな瞳に、嘘はつけそうにない。仕方なく頷いた。
「……まあ」
「一目惚れってこと?」
「だから、その言い方……。んーまあ、でも、一目で憧れの存在、みたいになったのは確かかも。大学のサークル勧誘って、ほんとすごくてさ。もう、一歩進むと話しかけられるって感じでさ」
「あー、お兄、死んじゃいそうになってたんじゃない?」
結愛の苦笑に、オレは大きく頷く。
「なってた。ほんと、もうサークルは入らなくていいかな、と思ってた」
「それなのに、陽彩先輩に誘われて、入っちゃったの?」
「……そう、だね。あ、内緒ね、これ。一目惚れとか、言うなよな?」
「はーい」
うふふ、と笑ってる結愛にちょっと心配になり、「絶対だからね、結愛」と念を押す。
「はーい。まあ私、恋路の邪魔になるようなことはしない。けど、後押しはするけどね~」
「恋路の応援はいらないって。確かに、一目、先輩を見た瞬間、ものすごく可愛いぬいの絵が浮かんじゃってさ」
「あー、それで、これ作ったんだ?」
結愛はテーブルの上の「先輩くん」をまた手に取って、眺めている。
「確かにめっちゃ可愛い~」
「勢いで……」
「で、お守りにしちゃったの?」
「まあ……ほんとは、小さい袋にも入れてたから、落としたって見られないようにしてたしさ。バレる気、無かったんだけど」
ふ、とため息をつくと、結愛は、まあまあ、と笑う。
「バレたおかげで、仲良くなれたんだから、良かったんだよ!」
「――仲良くなれたのかな」
「うん、なれたんじゃない? とりあえず、先輩の従妹ちゃんのぬいを、頑張って作るところからだね。お兄、気合よ、従妹ちゃんから落としていこう」
「落とす……?」
結愛の言ってることが良く分からないが。
「まあ頑張って、可愛く作るよ」
「うんうん」
「……つか、ほんと結愛」
「ん?」
「兄貴がゲイかもって言ってても、そんな感じって、ほんとすごいよね」
「そう?」
「うん。すごい。いつも明るくてさ」
大きく頷いていると、んー、と少し考えてから、結愛が笑う。
「あ、でもね、私の自己肯定感が高くて元気なのは、お兄のおかげな気がする。めっちゃ大事にしてもらったし、可愛がってもらったよね」
「え――そう、かな?」
「そう。だから、私は、お兄に幸せになってほしい」
なんだか、妹の言葉に、ちょっと感動して、泣きそうになってるオレ。
「でもさ、うち、パパもママも結構あまいじゃん? お兄も可愛がられてたと思うんだけど、どうしてお兄は、そんな感じ?」
「これはもう性格じゃない? 人前で話すのが苦手、とか、そういうのって、どうしようもないよね? 別にオレも、すごく嫌なことがあったとかは、ないし。というか、結愛がすごすぎる気がするけど」
「これも性格?」
「そうだろうね」
二人で、ふ、と顔を見合わせて笑ってしまう。
「結愛が誰と付き合うっていっても、オレも応援するけど……」
「けど?」
「大事にしてくれるやつじゃないと、だめだから」
「うん。わかったー」
そんなことを話していると、テーブルにある先輩の電話がまた鳴った。
なんとなく黙って、結愛と電話が切れるのを待つ。そのあと、またメッセージが入ってきてる音。
「……なんか先輩、断っても誘われちゃうんだね」
「うん。まあ。皆、来てほしいんじゃないかな。分かるけど」
「お兄とは別の意味で疲れそうだね」
「どうだろ。疲れてるようには見えないけどね。いつも楽しそうだよ」
そう言うと、結愛は、そっか、と微笑んだ。
その時、先輩が「お先に、ありがと」とバスルームから出てきた。
――オレの部屋着が、なんだかすごく良い物に見える、不思議。
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