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第23話 初めて

「あとでグループに連絡入れるから、参加するかどうかの回答よろしく」  冴島さんの言葉に、皆がそれぞれ、はーい、と答える。 「どうする? 宮瀬」 「どうしようかな。田中は?」 「ン~いくらだろ。言ってなかったよな」 「だね」  頷くと、田中が大きな声で、「すみません」と手をあげた。  ……こういう感じ、オレには無理。こういうのできるの、カッコいいなと思う。 「先輩、費用は大体いくらですか?」 「あー大体一万ちょっとかな……後でちゃんとした金額送る。去年は一万二千円くらいだった」  そのまま簡単な説明が始まった。なんとなく聞きながら、考える。  ――白川先輩はどうするんだろ。先輩が行くなら楽しそうだな。つか、逆に先輩が行かないなら、オレはこの陽キャ軍団の中でキャンプに、マジで何の修行をしに行くんだろうって感じがする。  あれかな、コミュ障改善の実地プログラム的な……?  その後説明が終わると、ここからは、出て行くのも残って午後の授業まで話してるのも自由。  周りの人達に話しかけられて、適当に合わせて話をする。  オレは、仲良くない陽キャと「適当な話」をできるようになっただけでも、高校から比べたら大分進歩だ。  話しながら、ちら、と前に視線を向ける。  今日は、先輩とは話せそうにないな。距離が遠い。  一応、今日はリュックの中に、先輩の従妹にあげるぬいを持ってきたんだけど……。  あとで連絡してみようかな、と思っていたところに、ポケットの中で、スマホが揺れた。白川先輩からだった。 『抜けて、こないだのベンチのところに来て?』  咄嗟に先輩を見ると、先輩はオレを見ていた。目が合って小さく頷くとうと、先輩は、ふっと笑って立ち上がった。 「ごめん、今日は先に出ま~す。じゃあまた~」  そう言った先輩に向けて、皆が声をかけてる。  先輩が出て行って、少ししてから、オレは立ちあがった。 「先に行くね」  隣に居た田中と周りの皆に声をかけて、先輩たちに挨拶をしながら教室を出た。  先輩の姿は見えない。オレは、こないだのベンチへ向かって走り出した。  今日も人気のない中庭。先輩が一人で座っていた。 「先輩!」  近づくと、先輩がオレを見て、軽く手を振ってくれる。 「どうしたんですか?」 「いや、あのままだと、二人では話せそうになかったから」  オレも同じことを思っていたから、それを言われれてすごく嬉しい。座ったオレに、先輩はにっこり笑った。 「こないだ、ありがとな。すごく楽しかったなーと思ってさ。また遊ぼ」 「――はい」  これまた嬉しくて、頷く。 「呼び出してごめんね。これを言いたかっただけなんだけど、人前で言うと、いろいろ聞かれそうだからさ」 「あ、大丈夫です――ちょうどよかったので」 「ん?」  オレは、リュックから、ぬいを取り出した。 「これを渡したかったので」  先輩は受け取った紙袋の中から、袋に包まれたぬいを取り出した。 「えっもう作ってくれたの?」 「はい。昨日頑張りました」  オレが昨日、一生懸命作り上げたぬいを腕の中に抱くと、先輩は。  とても嬉しそうに、ふわりと笑った。 「めっちゃ可愛い――オレが欲しいくらい」 「――――」  嬉しすぎる一言に、ドキッとして、声が出ない。  ふわふわ笑う先輩が、可愛くて。  見惚れてしまう。  ふと、見つめ返されて、しばらく、見つめ合う。  なんか。良く分からないけど今世界には、オレ達しか居ないような錯覚。  先輩と二人きりで、特別な時間みたいな。  胸の中が、うるさくて。でもあったかい。先輩と居ると、いつも、心の中、騒ぐ。 「従妹、絶対喜ぶと思う」 「……喜んでくれたら嬉しいです」 「ほんとありがと!」  笑顔の一言が、嬉しすぎる。  ときめいてるオレの前で、先輩がごそごそと鞄を漁り、封筒を手渡された。  何ですか?と中を見ると、五千円札が一枚。 「やっぱり、それは払おうと思って。良かった~、用意しといて」 「こんなにはもらえないですよ」 「でも、感謝の気持ちだから。貰ってよ? きっと正規のでこのサイズ買ったら、これより高いと思うし。それに、こっちの方が絶対可愛いと思うからさ」  絶対受け取ってくれそうにない先輩の言葉に、オレは、仕方なく「分かりました」と一応受け取った。  そして。今自分が考えていることに、またドキドキする。  断られるの怖い、けど……。でも、先輩は断るにしても、傷つけるような言い方は、しない、はず。  そこを信じられたから、声が出せた。 「先輩。オレと、ご飯行ってもらえませんか?」 「――ん? ……あ、それってもしかして」 「このお金で、ごちそう、するので」  そう言うと、先輩は、ははっと楽しそうに笑う。 「なんか宮瀬って感じ~ オレが受け取りそうにないから、ご飯になったんだ?」 「だって……こんなにもらえないですし」 「ほんとにいいのに。……ま、いっか。じゃあごちそう、して?」  ふふ、と笑って、先輩がオレを見つめる。   「あんまり高くないとこ、いこ」 「予算五千円以内のとこで」 「いやいや、せめて材料費くらい残してよ」  その言葉に、それはそうなのかな? と固まって。そのまま、二人で顔を見合わせて、笑ってしまう。  ――なんだか、すごく、ほっとした。  先輩と土曜に別れてしばらく経つと、週末のことは夢だった気もしてきた。もしてかして、月曜日に学校に行ったら、先輩は普通で、今まで通りの、ちょっと挨拶するくらいになったりするのかなとか、そんなことも考えてて。  まあほんとネガティブだなと思うのだけれど――そういう気持ちもあったから、時間が経つ前に渡して話したくて、ものすごくせっせと、ぬいを作ったような。  でも、良かった。ちゃんと、オレを見て、話してくれてるし。  呼び出してくれたの、特別感あって、ものすごく嬉しかったし。  ……ご飯も、行ってくれるって。  ていうか、オレ。  自分がすごく好きな人をご飯に誘ったのって、初めてかもしれない。  ――つか……こんなにすごく好きな人も、初めてか。 「何食べようか?」  楽しそうに話す先輩を見ていると――鼓動が速くなる。

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