24 / 59

第24話 先輩と居られる時間

「いつにする? オレ、いつでもいいよ」 「あ、オレも、いつでも」 「じゃあ、今日は? オレ、今日は予定無いから」 「あ、じゃあ今日で」  ――と、いうことで。  先輩希望で、駅の側、和食の定食屋に行くことが決まった。  またしても授業が頭に入らない。  大好きな人を誘って、断られなかった。嬉しいよな、これ。  変じゃないよな?   急に近づいた気がするけど、オレとばっかり居てもらっていいのかな。  金曜、急に泊まってもらって、土曜も夕方まで一緒で。今日も。  夢みたいかも。  結愛に「お兄はめっちゃ先輩のこと好き」と言われたことを思い出す。  ……そうだね。一目見た時からだ。  カッコいいとも思ったし、可愛いとも。話し方が優しいとも。  人気者なとこも憧れる。自然と人を楽しくさせて、キラキラ笑ってるとこも。  靴をそろえてくれるとこもちゃんとしてて、好き。  こうして思うと、好きなところしかないような。  今まで会った人の中で、一番魅力的な人だと思う。  一緒に居るとドキドキして、顔が熱くなって、先輩の一言に一喜一憂。  必死だよな、オレ。  でも――これを恋と認めてしまうのは、ちょっと気が引ける。  先輩はそんなつもりないだろうから、変な気持ちで接したくない。  別にこれ以上を求めたりしないから。  笑ってる先輩と、少しでもたくさん、いられますように。  そんなことを考えていたら、横から腕をつつかれた。  ん? と振り向くと、隣の席の女の子が笑っていた。 「宮瀬くん、何かお祈りしてるの?」 「え……あ」  こそ、と囁かれて、自分の格好に気付く。肘をついて手を組んで、確かに祈ってるみたいなポーズだった。  苦笑して首を振り、自分に呆れながら、シャーペンを持ち直した。  急に関わりが増えて、浮かれてるかもな。  ――分かってる。  オレは、人付き合いは得意じゃない。  結愛に強制的に外見だけは整えられたけど。オレは先輩とは全然違う。  でも先輩とは――話せなくても、沈黙が続いてても、それでいいと思えるかも。先輩の柔らかい空気感かな。苦しくならない。  先輩の周りにはキラキラしてる人が多いから、オレみたいなのは珍しいのかな。  静かなのが落ち着くのか? そんなこと、言ってくれた気がする。    たまに、バカみたいな勘違いをしてしまいそうな視線を、先輩が見せる。  あんな風に目を細めて、柔らかく笑われると、絶対勘違いする女子とか居そうだよな。  オレはちゃんと、線を越えないようにしないと。    とにかく、今日はまた一緒にご飯が食べられる。  ――先輩といられる時間を、大事にしよう。  そう思うと、心の中、ふんわり緩んだ気がする。  ◇ ◇ ◇ ◇  待ち合わせて、先輩がたまに行くお店に行った。  鯖定食、すごくおいしかった。まあ先輩と居るから、十倍増しくらいなのかも。 「あ、宮瀬、キャンプどうする?」 「まだ考えてて……先輩は?」 「ん――行こうかなとは思ってる……から、宮瀬も行こ? 宮瀬が行くなら行こうかな」  う……。  先輩のそんな誘いは、破壊力が強すぎる。 「行きます。先輩が行くなら」 「ふふ。決まりな?」  頬杖をついた状態で、楽しそうに笑ってる先輩を見て、小悪魔ってこんな感じなのでは、と思ってしまった。  楽しく食事を終えて、店を出た。  先輩の家は、電車で一駅先らしい。歩いても帰れるみたいで、よくよく聞いたらオレんちから、十五分位歩けばつくらしい。  思ってたより近いんだと思うとかなり嬉しい。うち、もうすぐそこだし、お茶に誘ってもいいかなと悩んでいたら、電話の着信。結愛からだった。 「あ。結愛です」 「出ていいよ」 「すみません。……もしもし?」 『もしもし、今、お兄の家の前。いつ帰ってくる?』  オレんちの前? 思わず首を傾げたオレを、先輩は、じっと見つめてる。 「今から帰るから少し待ってて」 『見せたいものがあって。本当は、陽彩先輩にも見て欲しかったんだけど』 「先輩? ……なら、今、隣に居るけど」 『えっ! マジで? 先輩と一緒なの?』  その声が聞こえたらしい先輩は、「結愛ちゃん? 陽彩だよ~」と、スマホに向けて話しかけている。 『陽彩先輩、今お暇ですか?』 「うん。まあ暇だけど」 『そしたらお兄の家に一緒に来てもらえますか?』 「うん。分かった」  えっ。  なんだか、勝手に、嬉しい方向に話が、進んでいるような。 「とにかくすぐ帰るから、待ってて。あ、結愛ご飯は?」 『食べてきた~』 「分かった。待ってて」  電話を切って、先輩と視線を合わせる。 「いいんですか?」 「うん。約束しちゃったし」  笑顔の先輩と一緒に家路を歩く。  嬉しいけど、結愛の用は何だろう、全然用件が見えない。 「あれかな、宮瀬のぬいが売れたとか?」 「そんなのだったら、電話で言えばいいと思うんですけど」 「あー、そっか。何だろうね」 「なんかすみません、付き合ってもらって」 「全然。こんなにすぐ結愛ちゃんに再会できて嬉しいし」  ……そうそう。こういうセリフを軽く言えるのが、すごいところだと思う。相手は嬉しいよね。  急いで家に帰りつくと、結愛はオレ達の顔を見るなり、嬉しそうに笑った。

ともだちにシェアしよう!