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第25話 縁って不思議

「陽彩先輩、こんばんはー!」 「結愛ちゃん、こんばんは。また会えたね!」 「ほんとですね」  のどかに挨拶をしてる結愛に、まず聞きたいこと。 「とりあえず明日は学校でしょ? 話、聞いたら送っていくからね」 「明日は創立記念日だよ。忘れちゃった? もう泊まるつもりでこっち来ちゃった。お母さんには言ってあるから」 「創立記念日か……そっか。ならいいけど。じゃあ、連絡してよ。オレが万一、飲み会とかだったら困るでしょ」 「お兄は月曜から飲み会は行かないかなーと思って」 「はは。正解だけど」  苦笑したオレに、結愛はクスッと笑った。 「あと、私、連絡したんだけどね」 「え? ほんと?」  慌ててスマホを見ると、確かに。昼過ぎから、結愛からの連絡、また結構来ていた。  先輩との夕飯に浮かれて、昼以降はずっとスマホを見ていなかった。  なんだかニヤニヤしている結愛。オレが今先輩と居ることで、そのせいでスマホを見てなかったと……絶対思っている顔をしている。 「あーと……ごめんごめん、とりあえず、入ろ」  部屋に入ってから、前と同じように二人に座ってもらった。オレが麦茶をコップに入れていると、結愛が嬉しそうに笑って、スマホをテーブルに置いた。 「お兄、早く早く」  呼ばれて、コップをテーブルに置きながら、何だろうと覗き込むと――。  まず先輩が、えっ、と不思議そうな声を上げた。 「こないだのアカウント、もう二千フォロワーなの?」 「そうなんですよ! 先輩!」 「それは、すごいのか?」  すごさがいまいち分からずに聞くと、結愛と先輩が「すごいと思う」と笑顔になる。 「まだ動いてないと思って、全然見てなかった」  先輩が言うと、結愛が、そうですよね、と笑う。 「私いろいろSNSしてて、結構フォロワーがいるんだけど。そこで、このぬいが可愛いって呟いてみたの。そしたら拡散してくれる人達が居て、だんだん広がっていってね。クオリティがすごいって言って、めっちゃバズりだして……そしたら、フォロワーは一気に増えたし――何より、こっちを見てほしいんだけど……」  次に見せられたのは、ハンドメイドを売る販売サイトの方。 「こないだ七点のせたんだけど……売り切れちゃった」  うふふ、と笑う結愛。 「さすが……どんなのせ方すれば、そんなに売れるの? すごいね、二人とも」  へー、と言いながら、売り切れたサイトを見ていると、結愛が「違うよ」と笑う。 「お兄のぬいが可愛いから、売れたし、フォロワーも増えたんだよ。調べてたんだけど、ハンドメイドは結構熱いみたいだよ。うまくのせれば、もっと増えるよ」  そうなの? と首を傾げてしまう。先輩と目が合うと、「オレも、ぬいが可愛いから売れたんだと思う」とにっこり。 「ここ見てみて」  そう言いながら結愛が見せてくれたのは、購入者のコメント欄。なんかたくさんほめてくれてる。  「めっちゃ可愛い、届くの楽しみです」とかてんて  ん? 届くの……?  ってことは送るのか。どうやって? 思わず少し首を傾げた時。 「そうなの、お兄。全部お兄ので登録してあるからさ。全部今から返事してもらって、これから発送の準備しなきゃなの! だからほら見て、送る準備が出来るもの、全部用意してきたから」  さっきから、でかい紙袋持ってるなあとは思っていたけど、なるほど。中を見せてもらうと、OPP袋とかプチプチなどの緩衝材、封筒や箱などいろいろ入っていた。   「任せて、ママのフリマサイト発送の手伝いしてるから!」 「ありがと、任せた!」 「いやいや、お兄もやるの!」 「あ、やっぱり?」  苦笑した瞬間。 「オレもやろっかな」 「「え?」」  二人で同じタイミングで声を出して人を向けると、先輩は、ぷっと吹き出した。 「面白そうだから、混ぜて」 「え、ああ、もちろん。ていうか、いいんですか?」 「うん、いいよ。ていうか、オレ、良くなきゃ言わないからね?」 「あ、じゃあ……お願いします」  と、言う訳で。  月曜の夜、また三人で、あれこれ発送の準備をしながらいろいろ作戦会議をすることになったのだった。  ぬいを濡れないようにビニールの袋に入れたり、プチプチで巻いて小さくして封筒に入れてみたり。  そんな作業を、結愛と先輩と三人で。  なんだか楽しい夜だった。 「高校の学園祭で、ぬいを販売した時のこと、思い出す」 「あの時、楽しそうだったよね~。いっぱい作ったのが、あっという間に売れて行ってさ」 「そうそう。ほんと、売れなかったらどうしようって言ってたから。嬉しかったなぁ……」  オレが言うと、先輩が「そうなんだ」と笑った。 「でも宮瀬のぬいは売れると思ってたけどね」  ふふ、と先輩が楽しそうに笑いながら、ぬいを包んでくれているのが嬉しい。  梱包しつつ、結愛が、SNSや販売サイトのやり方を説明してくれている。  正直疎すぎてよく分からないけれど、説明は分かりやすい。  ほんと結愛、頼りになる。  ――先輩も、居てくれるだけでありがたいのに、楽しそうに手伝ってくれているし。  三人で居ることに、ちょっと慣れてきたりして――ほんと、不思議だ。  昔から作ってる、可愛いぬいたちを、ちょこっと作って載せたら、どんどんフォロワーが増えたり、販売サイトで売れたり。とにもかくにも、これも全部、先輩と知り合って、先輩のぬいを持っててバレて……それによって、先輩と結愛が出会ったからだよな。  二人が話さなかったら、サイト登録とかもしてないだろうし。 「……なんか、縁って不思議ですね」  しみじみ言うと、結愛がオレをまじまじと見つめる。 「どしたの、お兄?」  なんて、笑われたけど。 「そだね。不思議だよね」  先輩がそう答えてくれた。目が合って、なんだかふふ、と笑い合う。  結愛も、オレ達を見て、微笑んだ、  それから、変化は穏やかなのだけれど、いつもと少しだけ違う時が、流れていく。  大学やサークルに慌ただしくしながら、慣れない作業もして過ごすうちに、あっという間に合宿当日を迎えた。

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