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【第2章】第1話 合宿はじまり
合宿当日。
集合は、大学の駅前のロータリーの端っこ。
一泊の荷物を小さめのボストンバッグに入れ、肩にかけてアパートを出た。
天気は快晴。一昨日までは結構雨だったから心配してたんだけど、明日までは晴れが保つらしい。
きっと先輩が居るからだな。
根拠なくそんなことを思ってる。
「従妹、めちゃくちゃ喜んでた~! ありがとう宮瀬!」
昨日、キラキラ笑顔の先輩に言って貰えた言葉を思い出す。マジで作って良かった。来年も再来年も作ってあげたい、なんて思ってしまっている。
ふ、と息をつきながら、青空を見上げる。
前は、修学旅行とか自然教室なんて、憂鬱極まりないというか、なんのためにやるんだろうとすら思っていたのに。先輩がいるだけで、少し楽しみになる。
一年が十人、二年が十三人、三年が七人。ちょうど三十人らしい。
二週間前に計画された割には多く集まったと思うけど、もともと百人越えのサークルだから、三割くらいか。
まあ先輩が居なかったら、オレも七割の方に入ってたと思うが。
……でも、他の人たちも居るし、そんなに先輩とは近くに居られないだろうからなぁ。まあ仕方ない。
人付き合いの修行の場だと思おう。
その時、ポケットでスマホが揺れた。結愛からだった。『頑張ってきてね』というメッセージ。
楽しんで、じゃなくて、頑張ってってとこが、ほんとオレのことをよく分かってる。入ってきたタイミングもぴったりすぎて、苦笑が浮かびそうになって、顔を引き締める。
それにしても、四年生は在籍はしているけど、全員不参加。
いろいろ忙しいんだろうなと思うと、サークルで先輩に会えるのは、先輩が三年生の時までか。
そう思うと、結構短い。
……やっぱり、少しは先輩と話せるように頑張ろう。
スマホをしまって、視線を上げると、近づいてきていた集合場所に、バスと、数人のサークルメンバーが見えた。
ああいうところに近づくの、ほんと緊張するんだよな……。
気合を入れて挨拶しながら寄ると、皆、笑顔で迎えてくれた。三年の役員の人達しかまだいなかった。早すぎた。――先輩はまだみたい。
「早いな、宮瀬、偉い」
冴島さんが笑いながら言って、バスの中央の荷物入れを指した。
「荷物、トランクに入れてたら、バスに座ってていいよ。挨拶とかは揃ったらバスの中でするから」
「分かりました」
「席は早いもの順だから」
「はい」
むしろ良かった。ここで立ち話するより、バスで待ってられた方が気楽だ。
荷物をトランクルームに入れて、飲み物が入ってるリュックだけ肩にかけて、バスに乗り込む。まだ誰も座ってない。
後ろから三番目くらいの席の、冴島さん達が見えない方の窓際に座った。ずっと見えてるの落ち着かないし。
隣、誰が来るかな……一年の誰かかな。窓に肘をかけて、頭を傾ける。
ぼんやりバスの外、車が横を通っていくのを眺めながら、考える。
今日は、さすがに先輩のぬいは置いてきた。荷物を出す時、見られても困るし。
だからオレの癒しも無い。
脚の上に置いたリュックの中、なんか固い感触。結愛が買ってきたお菓子だな。
バスと言えばお菓子交換、とか言って、なんか色々買ってきた。
持ってってと言われて、仕方なく突っ込んできた。まあ、出さなくてもいいし。もしも貰っちゃったら、返すのに使おう……。
ふあ、とあくびが漏れる。
合宿、どんな感じかなーとそわそわしていたら眠れず、ついつい、ぬいを作り続けてしまった。
しかも朝も、無駄に超早起き。完全に寝不足だ。
冴島さんの挨拶が終わったら、寝かせて貰おう。
そんなことを考えながら、あくびをかみ殺す。
◇ ◇ ◇ ◇
「……?」
何かが、肩にぶつかった感触。目が開かない。
あれ、今何してるんだっけ……。首、痛い。……あ、バスか。バス、揺れてる。絶対走ってるな、これ。
まさか、オレ、冴島さんの話も聞かず、皆が乗ってくるのも知らず、寝こけてた?
うわ。最悪。
ゆっくり目を開けると、高速道路を走っていた。
どれくらい寝てたんだ、オレ……つか、肩に何か――と気づくと、乗っていたのは人の頭だった
誰か確かめようと動いた瞬間、カチンと固まる。心臓だけは、大きく跳ねた。
白川先輩……? なんで?
先輩も寝ていた。
多分、周りも静かなので、皆、寝てるのかも。
動きたいけど、動いたら先輩を起こしてしまいそうで、オレは固まったまま。
そして、頭の中はまっしろのまま、ひたすらドキドキしたまま、しばらく時を過ごした。
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