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第5話 隠し撮り

 先輩はもう一度登ってる感じなのに、軽々と進む。すごいなぁ。  ……登山に慣れてるって、本当なんだろうな。  静かなとこが好きっていうのと繋がるのかな?  そんなことを考えながら、先輩と里山の話にたまに参加しながら、やっとのことで、展望台に付いた。  階段から開けたところに降りると、風がさあっと流れてきて、少しかいてた汗を冷ましてくれた。 「宮瀬、里山、平気?」 「はい。ていうか、貴臣は合わせてくれただけなので原因は私です」 「あーそうなんだ……って、貴臣?」 「貴臣って呼んでるの?」 「あ、はい。さっき呼ばせてもらうことに」  あああ。……なんか皆の前で言われてしまった。なんか名前を呼ぶとか、特別な関係と思われてしまうのでは。  ……と思っていたら。 「えーそうなの? いいじゃん、私もそう呼んでいい?」 「じゃあオレも名前がいいな」 「そういえば皆、結構苗字だったかも」  そういう反応なのか。さすが、ほぼ全員が陽キャのサークル……。  予想もしなかったし、目の前でこのやりとりを見ていても、理解できない。  相当仲良くないと、名前呼び捨ては、オレの中では無いのだが。こういうのはついていけないなあと思っていると。 「皆、そういう話は後にして、景色見なよ~綺麗だよ」  白川先輩が笑いながらそう言って、展望台の向こうを指差した。皆、確かに、と笑って、わいわいと景色の方に向き直る。助かった……。そう思いながら、オレも、景色を眺めた、  下に広がる街並みも、遠くに見える海も、すごく綺麗だ。 「こっち向いて」  先輩の声にふっと気づいてなんとなく視線を向けると、カメラを持って、他の人達を撮ってる先輩の姿。  スマホじゃなくて、ちゃんとしたカメラなんだ。  詳しくないけど、高そう。安く買えるカメラとは違いそうってことだけは分かった。  オレの視線に気づいた先輩が、ふわ、と笑った。 「宮瀬もそっちに立って」 「あ、はい……」 「撮るよ~!」  オレのことは撮ってくれなくていいんだけど、楽しそうな先輩に断れず、景色をバックにして先輩の方を向く。  子気味の良い、シャッター音が響いた。と思ったら、オレの周りに急に人が集まってくる。 「一緒に撮ってくださーい」 「あ、オレもー」  皆が何らかのポーズをとっているのが目に入る。一応、ピースしてみた。仁王立ちも変かなと思ったんだけど。でも撮られた後で、ピースはむしろしない方が良かったんじゃないだろうかと悩むオレは、変なんだろうか。  撮り終えたら皆、すぐ散っていく。写真に撮られ慣れてるよなぁ……なんて思っていると、先輩が「ちゃんと撮れたよ」と言いながら近づいてきて、見せてくれた。  皆がよく分からない不思議なポーズをしてる中、一人ピースしているオレ。今って、ピースってしないのか? と眉が寄るが、消してもらう訳にもいかないし、触れないでおこう……。それより、ちょっと聞いてみたい。 「先輩、写真、スマホじゃないんですね」 「うん。せっかくだから、カメラ持ってきた」 「良さそうなカメラですね」 「うん。一眼。カメラ、好きでさ」  嬉しそうに、カメラを持ち直す先輩。ああ、好きなんだな、カメラ。と分かる表情。  なんだかその表情に、オレまで、嬉しくなる。  カメラが趣味か。そういうのまでカッコいい人だなぁ、と感心していると、離れたところで固まった人達が、先輩に撮って、と頼んだ。  先輩が、いーよ、と笑いながら、離れていった。  オレはまた景色の方に向き直る。いいなあ、自然。――むしろ誰とも話さず、しばらく見てたい。特に海は、光を反射しててすごく綺麗だった。  あ。結愛に写真送っておこ。    スマホを出して、ゆっくり動かしながら、数枚の写真を撮る。その先のフレームの中に、先輩の姿が入った。  先輩が、展望台から景色を撮っている。楽しそうな、横顔。風で、少し髪が乱れてる。  きっと、写真撮りますよ、と言ったら、先輩は断らないと思う。  こっちを向いて、にっこり笑って撮らせてくれると思う。でも――こっちを向いてない、カメラを楽しそうに撮ってる、先輩が良くて。  ――隠し撮り、すみません。  結構な罪悪感も、ドキドキも、あったけど。  オレはそのまま。――景色を撮るふりをしながら、一枚。先輩の写真を撮った。    もちろん。結愛には。その写真は、送らなかった。

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