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第6話 秘密基地みたい
景色を堪能してから山を下りることになった。
行きは一時間ちょっとかかったけれど、帰りは四十分程度。皆に遅れることもなく、麓にたどり着いた。
麓の店で、おみやげを買ったり、ソフトクリームを食べたり、皆それぞれ好きに過ごしている。自由時間は三十分。オレも適当に話しながら、お土産屋さんで、結愛と家へのおみやげを探す。
リンゴとかブルーベリーのジャムとか、喜びそう。自分にも買おうかと思ったけれど、なんだか可愛すぎる入れ物で気が引けた。いっか、オレと家族はこっちの野沢菜と蕎麦にしとこ。
ぬいで売り上げが出てるから、あれってほぼ結愛のおかげだし。あ、あと先輩のおかげでもあるから。
クッキーとか、いろいろ買っていってあげよう。
……先輩にもあげようかな。ジャム、いくつかそろえて。
これ、先輩が使うなら、おしゃれでぴったり。
手伝ってくれたお礼って言えば、不自然じゃないかもしれない。
まあ渡せない可能性もあるけど、そしたら結愛に全部あげればいいや。
かごを持ってきて、あれこれ入れていると、通路の途中で、ばったり先輩に会った。
「なんか、いっぱい買ってるね」
「あ、はい。家族とか」
「えらいねー。宮瀬、自分のおみやげとか、買うの?」
「オレのは蕎麦とか野沢菜ですね」
かごの中を見せながら、説明してると、先輩が「いいね、お蕎麦と野沢菜」と笑う。
「ジャム可愛いね。おいしそうだし。結愛ちゃん?」
「あ、はい。結愛、に……」
……と、先輩に。言えないなこれ。
「そっか。宮瀬もジャム好きなの? 自分のも買ってる?」
「ジャムは好きですけど……いやなんか、これは可愛すぎて、気が引けて」
「なにそれ」
あは、と先輩が笑う。
「陽彩ー、見てみろよ、これー」
二年の先輩たちに呼ばれた先輩は、一度そっちを振り返って、またオレを見てふ、と微笑んでから離れていった。
……あー。なんか。
ここに来て良かったなあ。
非日常の世界で先輩と話せるの、すごく楽しい。
学校で見るのとは少し違うかも。綺麗な景色の中で、綺麗な先輩、見れるの、イイ。
先輩、楽しそうだし。
先輩、ジャム可愛いって、おいしそうって言ってたから、やっぱ買っておこう。
あげるタイミングがもしあったら、渡そう。
レジでおみやげ袋を分けてもらって、皆と一緒にバスに戻った。バスでほんの十分ほどで、キャンプ場に到着。受付の建物に入った先輩たちが、バンガローの鍵と調理グッズを受け取って出てきた。
「食材はバンガローの中の冷蔵庫とクーラーボックスに入ってるって」
「とりあえず、バンガローにいこ」
皆で砂利道を登って、キャンプ場の奥、バンガローが三つ並んでいるところにたどりつく。
建物の奥には、調理場のようなスペースがある。
なんか、「村」みたいだな。と思った。
地面が土で、木でできた家が建ってる。ここで今日、この三十人で寝るのか。
でもって、あそこでカレーを作るのか。
……小学校の自然教室とか、なんかそんなの以来な気がする。
こういうこと、してる人達ってほんとに居るんだな、と、場所を見たら余計に実感した。
……とりあえず、明日帰る時まで、とにかく、精一杯、頑張ろう。
周りでキャアキャアもりあがって、楽しそうな皆を横目に、オレが思ったのは、それ。
「三棟だから、女子で一棟つかって。どこがいい?」
冴島さんが聞いて、女子たち相談の上、調理場スペースに近い奥が女子の棟になった。
「残り二棟、どうやって別れる? せっかくだから学年もバラバラにするか」
「いいね~じゃあ適当に! こっちとこっち、半分くらいで並んでみて」
目の前の先輩二人が、少し距離を取って離れた。おお。別れるのか。……どっちでも一緒だな。先輩と一緒がいいけど、ていうか、この人達目の前すぎて、先輩が並ぶのを見届けてから、が出来そうにない。立ってる場所が不運だった……。
仕方なく、目の前に居る冴島さんの列に、一番のりで並んでしまった、ていうか、半歩動いただけだけど。
皆が、えー、とか言って、ザワザワしながら、二列に並んでいく。皆、わりとどっちでもいいみたいで、少ない方に並んでいく、という感じで、あっという間に決まった。
「よし、これでとりあえず、荷物だけ中に入れようぜ」
「カレー作るから、中の冷蔵庫とかクーラーボックス出して調理場集合なー」
先輩たちの声に、はーい、と皆が返す。
「宮瀬、こっちの列一番のりだったなー」
「あ、はい、まあ……」
「楽しもうなっ」
「はい」
……オレ、半歩進んだだけだけど。選んだわけじゃない。それは言わず、愛想笑い。愛想笑いできるようになってきたのも成長だろうか。そもそもこんな陽キャの集まりで会長になるようなこんな人。優しいし気も使えるけど、結構言葉に力があるというか。学級委員って感じのリーダータイプと話すこと自体、あんまり無かったしな。
それにしても、白川先輩は、どっちの棟になったんだろ。気になるけど先頭歩いててきょろきょろするのもあれなので、冴島さんにくっついて、真ん中のバンガローに向かい、靴を脱いで中に入る。
言われるままに荷物を端において、部屋を見回す。外から見て三角の屋根だったけど、見上げると、太い木がむき出しの天井。木の匂いもするし、電気も裸電球。敢えてこれにしてるんだろうなあ。明るくなくて、なんか……何だろう。
あ、そう。あれだ。秘密きち――。
「わぁ、いいね。秘密基地って感じ!」
明るい声が聞こえてきて――今オレが頭で思ったことを、楽しそうに言葉にしたのは。
白川先輩だった。荷物を部屋の端に置きながら、上を見上げている。
同じ棟ってことが嬉しくて。
……同じタイミングで同じこと、思ったのが、ただそれだけですごく嬉しくて。
なんだか口元が綻んだ。
◆◇◆
9/30に発表がありました。
アルファポリス【第1回青春×BL小説カップ】で、ランキング1位&優秀賞を頂きました🩷
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