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第7話 モテモテ?
その後、材料を持って、調理場に集まる。
バンガローから少し奥まって離れている調理場は、屋根がついてる半屋外だった。裸電球がぶら下がり、その光に虫が集まっている。
女子は悲鳴を上げているけど、まあこういうものだよなと思いながら、見回した。
コンクリートの流し台がずらっと並んでいて、ガス台もいくつか。
吹き抜けていて、森の風が通っていく。
……雰囲気、すげえ良いな。
まだ明るいけど、暗くなったら、星も綺麗に見えそうだ。
調理の道具には、米の炊き方、火のつけ方、片付け方などの説明書がついていた。
お米は鍋で炊くらしい。
かなりでっかい鍋。……失敗したら三十人分のお米が……。それはかなり怖い事態だ。
ということで、オレはそこだけはやってはいけないと思い、すかさず、野菜切り担当に立候補した。
とりあえず野菜切りなら味に関係ないし、と、そんな理由でひたすらジャガイモの皮をむいて切っていると。
「えー、宮瀬くん、結構器用」
「包丁使えるんだね」
不意に同学年や先輩の女子達に囲まれた。うお……。緊張して、指切りそうだからやめてほしい。
「一人暮らしなので、なんとなくです……」
話を終わらせてもらおうと言葉短く、答えるが。
全然終わってくれなかった。
「料理してるの偉いー」
「簡単なものしか作れませんけど……」
「手先、器用だねー!」
正直、女子に褒められながら囲まれるなんて、手芸以外では人生初。
しかも、手芸では、出来上がったものを可愛いって褒められるから、どっちかっていうと褒められるのは、ぬいたち。自分を褒められると、なんて答えていいか、まったく分からない。曖昧に笑いながら、ただひたすらに野菜を切っていると。
「宮瀬も皆も、こっち向いて」
白川先輩の声。なんだかほっとしながら顔をあげると、カメラを向けられた。
包丁を握った、なんとか頑張って笑顔を先輩のカメラの方に向ける。周りには、女子達が並んだ。
「おっけー」
と先輩の声。
――なんか今の写真、もしかしたら、女の子たちに囲まれて浮かれてたように見えるかも。
内心の実情は全く違うのに微妙……と苦笑していると。
先輩が、「宮瀬、モテモテ」とクスクス笑いながらオレに写真を見せてくれた。
……笑顔は微妙だが、見ようによっては、やっぱりそう見えるかも。
「後であげるね」
「それは別にいいかもです」
苦笑しながら野菜を切り続ける。
あの写真、結愛に見られたら、なんて言われるか分からない。
いや、結愛は、分かってるかな。たまたま囲まれてオレが困ってるってこと。
ますます苦笑が浮かびそうになる。
少し離れたところで、いろんな人たちの写真をとってあげてる先輩と、群がる女子達。
と言っても、写真を撮り終えても、まだオレの周りに居る女子たち。なんか野菜を切るの手伝う、とか言って、周りで切り出した。
光景的に言えば、今、オレもなぜか取り囲まれているから、同じに見えるかもしれないけれど。
先輩のは、いつもだからなぁ。あれはどこに居ても、相変わらずな光景。
……モテるなぁ、先輩はほんとに。
石井が先輩のそばに張り付いている。……張り付いているって言い方もおかしいななと気づく。
そんな今更な、些細なことで。
どうしても気持ちが落ちる気はする。
先輩がモテるのは、ものすごく納得なのにな。
「宮瀬くん、得意料理は?」
先輩の一人に聞かれて、ちょっと真面目に考えてしまう。
「チャーハンなら、よく作るので、おいしい、かもです」
「そうなんだ~! 食べてみたいなぁ」
「……いいですよ、いつか」
こういう社交辞令は、まともに断ると冷めるだけらしい。結愛談、だけど。
適当によさげな返事をしておけばいいらしい。実際それが本当になることは、まずないとのこと。もし本当になりそうになったら、その時断るか決行するかは考えればいいそうな。
陽キャの人達の社交辞令は、かなりオレにはハードルが高い。
ここで「いいよ」なんて言うの、普通なら絶対言えない。
いいよ、自体が、なに本気にしてんの、て言われそうな気もするし。
いろいろ、むずかしすぎる……。
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