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第8話 全然だめかも?
「宮瀬くん、何チャーハンが好き? 具は?」
「……卵とかハムとかかな」
「いちばんシンプルでおいしいやつだね~ほんとに食べさせてね」
そう言われて、ジャガイモを小さくしながら、心の中では首を傾げる。
この先輩、今、ほんとに、って言った? いやでも……??
悩んだ瞬間。周りから、別の声。
「えーいいなあ、私も食べたーい」
「私もー」
陽キャの女の子たちが、楽しそうに話に乗っかってくる。
なるほどこのノリでいいのか。
こういう時はちょっと笑っといて、話は詰めないのがテクニック……?
つか、難しすぎるよ、結愛。無理だ。
――でも、ふと思うのだが。
陽キャの皆は、総じて明るい。
騒がしくはあるけれど、いつも楽しそうに話をしている。それは見習うべきところかもしれない……。
少し前まではものすごく敬遠していたのに、これだけ居ると、少しは慣れてきた、かな。
前なら黙りこんで逃げてたけど、なんとか返せたような……?
やっぱり人は経験によって、成長していくのかも。
しみじみ思っていると、里山が近くにやってきた。
「貴臣、ジャガイモ洗って、あっちのフライパンに入れてって」
「あ、分かった」
「手伝うね」
「あ、じゃあ半分」
「うん」
ジャガイモを山分けして、水道で洗っていると、里山が笑った。
「囲まれてたね、女子に」
「うん……って、野菜の切り方を褒められてただけかな」
「うん。そうだったみたいだけど。なんかあれだよね」
「ん?」
「貴臣って……女子、苦手?」
……ひゅ、と息を吸い込む。
これに、正確に応えるならば。
女子だけじゃなくて、男子も、ここのサークルのほぼ全員、得意ではない。
先輩を除いて。
里山にはいろいろバレてるのかな、と思いながらも。
苦手なんて、言えるわけがない。
「そんなことないよ」
「そう? なんか、逃げたいのかなーと思って、声かけちゃった。余計なことしたならごめんね、ハーレムだったのに」
「…………」
え。そうなの? あれ、助けてくれたわけか。
……里山。良い奴だな。
やっぱり、ちょっと結愛みたいだ。
「なになにハーレムって?」
「あぁ、宮瀬が? いいよな、顔良いとモテて」
「…………」
陽キャ男子に言われる聞き慣れない言葉に、思わず首を傾げると、隣で里山が、ふっと吹き出した。
「え?」
「あ、ごめん。笑っちゃった……ううん、なんか。貴臣って、ほんと、可愛いなって思って」
「何、瑞穂は、宮瀬くん狙いなの?」
一年の男女がたくさん集まってきた。
……超、苦手な雰囲気だ。
「違うけど~。あ、貴臣、ジャガイモ、炒めにいこ?」
クスクス笑う里山と、一緒にフライパンで待機してる人達の元に向かう。
そこからは、火を使って炒めたり、その他いろいろ準備をして、忙しかったので、話しに困ることは無かったが。
なんかオレ、うまく話せてるのかどうか、分からなくなってきた。やっぱ、全然だめかも。
内心、ため息の嵐だった。
◇ ◇ ◇ ◇
カレー作りよりも、オレ的には、人との会話にものすごく頑張りながら作ったカレーを、皆で食べた。
綺麗に片付けまで終わった後は、とりあえずしばらく自由行動になった。もう少し暗くなったら、星空観賞会をするらしい。
少し歩いた先にある入浴施設に行く人や、受付のところに買い物に行く人、真ん中のバンガローで飲み始める人。皆、結構バラバラに散った。
この三棟で、この区画は貸し切りみたいな感じなので、結構騒がしくしてても大丈夫そう。別の区画があるのが見えるけど、遠くて声は聞こえなそうだった。
オレはとりあえず、真ん中の自分の泊まるバンガローに入り、田中とか比較的話しやすい中で過ごしていると、ポケットの中で、着信。結愛からの電話だった。
合宿だし、出なくても結愛は全然許してくれると、思うのだけれど。
大分疲れてきていて、少しの間、脱出することを決めた。
「妹から電話なので……すみません」
立ち上がりながら言うと、皆が反応する。
「妹ちゃんいるんだー」
「似てる?」
「可愛いの?」
そう聞かれて。
「あーいえ……普通です」
可愛いなんて言わない。こんな陽キャたちに、目を付けられたくないし。
普通? と笑いが起こってるけど。そんなざわめきの中、ふと――先輩と目が合った。
一瞬だけ。
気のせいかな? そう思いながら靴を履いて外に出る。電話は切れていた。
これって、結局また結愛に助けられて逃げたことになっちゃうかなあ……。
まあ、それでも、ここに居るだけで、マシか? ……どうだろ。
息をつきながら、少し離れた静かなベンチに座り、電話を掛けなおす。
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