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第9話 陽キャと陰キャ

 呼び出し音を聞きながら眺める目の前の空は、とても広かった。だいぶ暗くなっていて、星も見えてきた。 『もしもし、お兄?』 「結愛? ごめん、出られなくて」 『あ、ううん。合宿なのに、ごめんね、手短に話すね』 「うん」 『あの、星座シリーズのぬいの投稿がさ、めっちゃバズってる。まあそれはいいとして……お兄、DM見た?』 「いや。見てない」 『一応住んでるところに県名だけ入れてるでしょ。なんかね、ハンドメイドのお祭りがあるんだって。詳しいこと、ネットにのってるんだけど、開催場所、結構近くてさ。なんかその企画をしてる担当の人からDMが来てて参加しませんかって。ある程度の商品が作れるなら売ってもらいたいって。あと、ワークショップとかに興味ありませんか? だって』  最後まで聞いて、少し考えてから。 「ワークショップって、なにか一緒に作ろうってことかな?」 『どうやったらぬいがあんなに可愛くできるか、みたいな、作り方とかコツとか、教えられることがあればって書いてあったよ。夏休みのイベントみたい。もう締め切りギリギリみたいでさ。考えながら帰ってきて? 明日返事しようよ』 「ん、分かった」 『お兄だけだと無理かなと思ったんだけど、手芸部の人たちとか……ちょっと企画イベントやらないって誘えないかな? お礼は稼ぎ次第だから、ボランティアみたいなものになっちゃうかもだけど……でも、そういうのやりたいって人も居るんじゃないかなあ?』 「ん……考えとく。手芸部の子たち、連絡取れるから、声もかけてみるよ。手芸部の子たちとなら出来そうだし」  そう言うと、少し、結愛が黙って、それから。 『今って、少し話してても平気?』 「うん。今、バンガローを抜けてきたから。……それにちょっと疲れて、結愛と話してたいかも」  そう言うと、結愛は、あらら、と笑った。 『疲れちゃった?』 「いや。……オレなりには頑張ってるんだけどね」  そう言うと、結愛は、うんうん、と笑った。 『お兄はさ、手芸部の中だけじゃなくてさ。他でもきっとできると思うよ。手芸部ではよく教えてたんでしょ? やることは変わんないんだもん。お兄、ちゃんと喋れるしさ。私、陽キャ代表、みたいに言われてるけど、お兄みたいな友達、ほしいよ? 絶対、普通に人と話せるから、頑張って?』 「……ん、分かった」  妹から励まされて、苦笑してしまう。 『なんかさ、陽キャと陰キャって分けて言われるし、お兄もよく分けて、使うけどさ。皆、普通の人、だと思うよ? ちょっと元気な人とか、ちょっとうるさい人とか、明るい人とか……。陽キャな人がいつもずっとそうかって言ったら、そんなことはないと思うんだよね。人前では笑ってても、本当に楽しいかは別だから。私だってさ、たまには落ち込むのにさ、陽キャとか言われるとさ、そんな言葉でくくんないでって思うことあるし……って、何の話だっけ??』 「……なんだっけ?」  二人でクスクス笑い合う。 『あ、分かった。だから、お兄も分けて考えないで、話してるその人が話しやすいかどうかで見た方がいいよって』 「ああ。うん。なんかそれは、最近、ちょっと分かってきたかもしれない」 『おお! 成長だね! そうだよ、お兄、部長だってちゃんとやってたし! お兄のあの文化祭の売り上げは、伝説になるって、手芸部の子たち、こないだも言ってたよ』 「はは。そうなの?」  そうだよ、と結愛は楽しそうに笑う。 『このイベントさ、お兄にとっていい機会だと思うんだよ。お兄が、外の世界で、いろんな人に向けて話したり、教えたり。お兄、脱皮すると思うの! だから頑張ろうよ』 「脱皮って……なんか、いつも思うんだけどさ、結愛って、オレの妹ってよりも、姉さんみたいだよね。それか母親かなぁ……」 『はー?? 母親じゃないし! 姉さんでもないから。二つ下』 「だから二つ下とは思えません」  そう言ったオレに、結愛は、あは、と笑った。 『私、お兄のこと、大好きだからさ。めっちゃ遠慮するとこはあるけど、優しくてさ。だから、もったいないから、いろんな人と話して、いろんな人と仲良くなったらいいよ。そしたら、きっと、先輩とも仲良くなっていけると思うし』 「……何でそこに先輩が出てくんの」 『だって、お兄、陽彩先輩、大好きでしょ』 「……ていうかさ、BLに持ってくのやめてね」 『ふふ。でも大好きでしょ。ぬい作っちゃうくらいだし』  クスクス笑う結愛に、オレはふぅ、と息をついた。  ふと夜空を見上げると、この間にも、星が増えた気がする。

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