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第10話 BLするっていっても。
「――先輩は、今日もさ、順調にめちゃくちゃモテてるよ」
『モテるよね、絶対。先輩、カッコいいのに可愛いし、なんか優しすぎるし。ちょっと奇跡みたいな人だよね』
「そうだよね、ほんと。ほんとそう」
しみじみ言ってしまってから、結愛が電話の向こうでクスクス笑ってるのに気づいて、はっと我に返る。
「別に、オレは、ほんとにそういう意味でどうかなりたいとか思ってないよ。そんな可能性、あるわけないし」
これは別に、卑屈になってるとかじゃなくて、普通に考えて、あの人とオレが、BLするなんて、考えられる訳がないってだけだ。すると、電話の向こうで、結愛がため息みたいな吐息をこぼしている。それから、お兄、と呟いた。
『私ね、結構モテるんだけど』
「うん。知ってるよ。中高校ん時も、モテてるのも見てたし」
『モテるんだけど――私が好きになる人は一人なんだよ?』
結愛の言葉を、少し考えて、黙っていると。
『モテたからってその人たち、みんなを好きになるわけじゃないんだよ。分かる?』
「……うん?」
『だからね、お兄。先輩が好きになるのは一人。モテてるとかは関係ないんだよ』
「まあ……確かにそうだけど。でも、その一人になれるなんて思わないし、そんな恐れ多いこと、考えることもないし」
『だからね、それよ、お兄』
「ん?」
『ネガティブがダメなのはそこだから! 好きになってもらえるかもしれない、好きになってもらえるように頑張ろうってしなかったらダメなのよ、絶対。お兄が足りないのは、そこだよ!』
なんの力説なんだと、おかしくてならない。ふ、と笑いが零れた時。
『私のお薦めBL漫画、今度お兄に見せてあげるから!』
「ええぇ……」
何の話になってるんだ。眉を寄せて、空を仰いでいると。
『漫画のみんなはね、恋に一生懸命で、なんて言うのかなこう……男同士っていうハードルがあるわけ。でも、その大きなハードルの中でだめかなって思いながらも、やっぱり好きだからって、みんな頑張るの。私がBLを好きなのは、そこなんだよね。もうめっちゃいいんだよ、ほんとは好きになっちゃいけないとか思うけど、頑張るって、すごいの。今度読ませてあげるね!』
「……あの」
『あ、あんまりいろいろ激しくない奴にするから大丈夫だよ!』
結愛はクスクス笑って、そんな風に言う。何の話だ。
『可愛いやつ。なんかこう、切なくて、キュンってするようなやつにするから』
「……結愛、オレをBL仲間にしようとしてない?」
『してないよぅ! ほら、なんていうか……人生の、教科書っていうかね』
ふふふふ、と結愛が笑ってる。
「そういうことで持ってくからね。待ってて』
「……読むか考えとくね」
『読んで! じゃあね~! 明日行くから~』
「はーい」
電話を切って、しばし悩む。
何の話だったんだ、最後の方は全部BLになってたような。
ふ、と、苦笑しながら、空を見上げた。気づくと星がとても綺麗だった。
「うわ……」
暗い夜空に、大小たくさんの星。煌めいてるように見えるのもある。
確か、近い星でも、光が届くのに数年、遠いと数万年とかかかるって。
いま目にしている「煌めき」は、過去の光だとか聞いたことあるなぁ。
もうずっと何万年も前に、星が爆発した光かもって。
今この瞬間、煌めいているあの星は、もう無いかもしれない、とか。
なんかロマンだ。不思議だけど――今、目の前にある星たちは、とにかく、とても綺麗だ。
ふと思いついて、スマホで星空を撮ってみる。
大きい星がまばらに映るだけだった。スマホじゃ綺麗には撮れないな、と思った時。
「宮瀬?」
呼ばれて振り返ると、声で思った通り、白川先輩だった。
なんだか、一瞬で、心の中がほっこり温かくなるし。
少し、心臓が早く動きだす。
BLなんかしない、って言ってるけど。
……それは、二人ではできないってだけかも。
なんか、結愛の笑った顔が浮かんでくる気がして、笑ってしまいそう。
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