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第11話 嬉しいの連鎖

「先輩?」 「電話終わった? 結愛ちゃんでしょ?」 「はい。終わってます」 「ぬいの話?」  そう聞きながら、オレの隣に腰かける先輩に、少し、背筋が伸びる。  嬉しい気もするけど、ちょっと緊張。  風景が綺麗すぎて、なんだかロマンチックな感じがするからかな。 「結愛からは……イベントの話でした」 「イベント?」 「はい。ハンドメイドのお祭りがあるらしくて、その企画をしてる担当の人からDMが来てるみたいです。販売しないかとか、あとワークショップとかにも興味ないかって」 「ワークショップって、何か教えるってこと?」 「どうやったらぬいが可愛くできるか、とか? 作り方とかコツとか……夏休みのイベントみたいで、明日帰ったら詳しく見て返事することになりました。まあ、あとは――全然関係ない話で……そっちの方が長かった気がします」  さっきの話を思い出して苦笑していると、先輩は、何だか楽しそうに微笑んだ。 「すごいじゃん、宮瀬。誰かに教えるとか」 「まあ、夏休みのちびっこかなーと思って。それくらいなら、出来るかも……?」 「ちびっこは平気なの?」 「そう、ですね。いけるかも……?」 「そっか。てか、宮瀬、子供に好かれそうだよね」 「親戚の子供とかまとわりついてきますね。だっこーとか、おんぶーとか。子供は意外と平気かもしれません」  親戚で集まる時、めちゃくちゃ絡まれてる自分を思い出して、笑ってしまいながら、ふと別の心配が沸き起こる。 「あ、でも子供にお母さんとかがついてきたら、一気に緊張しそうですね」  そう言うと、先輩はオレを見て、ふんわり微笑む。 「宮瀬、今日、色んな人とちゃんと話せてたじゃん?」  じ、と見つめられて、先輩を見つめ返す。  綺麗な瞳。綺麗な茶色のガラスみたい。まっすぐな視線に、少し照れて、前を向いて少し俯いた。 「一応、頑張ってました。まあでも……疲れるは、疲れますね。内緒ですけど」 「分かってるよ……あ、今日は、オレのぬいは?」 「さすがに居ないので……」  苦笑して答える。だって、これ。普通に聞かれてるけど……これを楽しそうに聞いてきてくれる先輩ってほんとミカエル……とか思いながら、笑ってると。 「そうだと思って、だから、オレが来てあげたんだけど」 「――え」  ぱ、と先輩を見つめると。ふふん、みたいな顔して、オレを覗き込んでくる。 「頑張ってるのも分かったから。んでたぶん、ぬいは置いてきただろうなーと思って。癒され要員として、ここに来た」 「――――」  キラキラした瞳を細めて、クスクス笑う先輩。  ああ、なんか。……ほんと、好きだな――――。  自分の心の中が、ほっこり、癒されるのが分かる。と同時に。  ほんと好きだなって。何言ってんだ、オレ。いや、そりゃ好きだけど。  ああ、なんか今オレ。  …………先輩を、抱き締めたい、って。思ったかも。やーばーい……。 「嬉しい?」  クス、と先輩が笑う。ますます動揺しながらも、なんとかオレが頷くと、先輩は「良かった良かった」と微笑みながら、空を見上げた。 「超、綺麗。見てみ、宮瀬」  言われて、同じように空を見上げる。 「いいよなー、こんな夜空。毎日見れたら、幸せ」 「ですね……」 「宮瀬、星、好き?」 「好きです」 「あ。そうだ。写真も撮りたくて来たんだった」  そう答えると、先輩はベンチに置いてたカメラを手に取った。小さな三脚を立てて、カメラを設置してる。 「三脚が必要なんですか?」 「うん。星とか撮る時はね、手持ちだとブレちゃって無理」 「詳しいんですか、写真」 「んーまあ。写真部だった」  そうなんだ。写真部。へえ。カッコイイな、先輩。  カメラのセットをしている先輩を見ながら、頷いていると、ちらっと視線を向けられた。 「――運動部だと思った?」 「え?」 「写真が好きで入ってたんだけどさ。まあ、なんか、オレには似合わないって皆、思うらしくて。運動部じゃないの? って何回言われたか」 「――そう、なんですね」 「まあ写真部の人にも最初、ほんとにうちに入るの? て聞かれたし。インドアなんだね、とか言われたこともある。そういうイメージの人も居るし。まあ、言われ慣れたけど。」  笑いながら、先輩は言う。 「え? そんなこと言われちゃうものなんですか? ――オレは、カッコいいなって思いましたけど」 「え?」 「先輩が今日、そのカメラで皆を撮ってて……カメラ、似合うし。カッコイイなって。写真部の友達、居るんですけど、そいつも結構カッコいい奴だし。オレはすごくいいイメージなんですけど」  きょとんとしてる先輩の顔を見ながら、そんなに今まで意外って言われてきたのかな、と不思議になる。  どんな奴なら逆に写真部が似合うって言われるんだろうなぁ。よく分かんないけど。 「あ、ちなみに、オレの手芸部は、意外っていうか、ちょっと気持ち悪いって言われてた気もしますよ。似合わないっていうか。男、入っていいの? とか」 「ええ……それはひどい」  先輩が眉を顰めて、オレを見つめてくる。 「まあでも、文化祭ですごい売上出したら、見る目は変わって……気持ち悪いとは言われなくなりました……まあ、別にカッコいいとも似合うとも言われてはないですけど」  思い出して苦笑いを浮かべているオレに、先輩は、ふ、と笑った。 「宮瀬も、手芸が好きだから、続けたんでしょ?」 「……まあ、そうですね」  頷くと、先輩は、ふふ、と微笑む。 「――オレもそうだった。好きだったから。カッコイイって、嬉しい」  なんだか、先輩。  ほんとに嬉しそうに笑ってる。  オレも嬉しい。

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