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第12話 推しのミカエル先輩が。

 先輩は、くる、とオレを振り返り、まっすぐにじっと見つめてきた。 「オレ、写真部、似合う?」 「もちろん。似合いますよ。綺麗な写真、撮るんだろうなって思います」 「――そっかぁ」  嬉しそうに頷いた先輩は、ふふ、と笑うと、少し黙って、星の写真を何枚か撮影した。  それから、三脚を少し離れたテーブルの上に置いて、オレの方に向けた。 「宮瀬、一緒に写真撮ろ」 「えっオレとですか?」 「うん。タイマーつけるから」 「え、いいんですか」 「うん。いくよー、十秒だから、笑ってて」  先輩がそう言ってカメラのボタンを押すと、青いライトがチカチカと光り出した。  急いで隣にきた先輩が、オレに顔を寄せた瞬間、「笑顔―」と楽しそうに言った。  それを聞いて、オレは頑張って、笑顔。フラッシュが光って、目に白い光が残る。  先輩がすぐにカメラの方に行って、カメラを確認してる。ちょっとドキドキ。 「宮瀬、ちゃんと笑顔で撮れてる」 「ほんとですか」 「うん、いい笑顔」  あ、良かった。先輩が急に近すぎたせいでドキドキして――強張ってなくて、ほんと良かった。 「これは印刷してあげるから、楽しみにしてて」 「あ、はい」  先輩とツーショット。  ……マジで来て良かった、合宿。  オレの写真はあんま要らないけど、先輩の写真は、楽しみにしておこ。 「宮瀬、星の写真、見てみて」  言いながら、先輩が見せてくれた写真には、とても綺麗な星空が映っていた。 「うわ。綺麗ですね!」 「でしょ~」 「すごいです。ちゃんと見たまま、みたいな星空。撮れるんですね!」 「うん、撮れるよ~そうそう。それで、オレ、登山慣れてるんだよ」 「あ。なるほど。……じゃあ全然インドアじゃないじゃないですか」 「ね。むしろアウトドアなんだけどね~。まあインドアの奴も居るけど」  ふふ、と笑う先輩。 「風景写真、好きってことですか?」 「うん。好きだった。まあ、大学に入ってからは、あんまり行ってないけど。部活で何人かで行ってたからさ」 「へえ……すごいですね。星もこんなに綺麗ですし。スマホじゃ撮れなかったし、全然違いますね」 「あ、撮ってみたの?」 「大きい星が少しうつった程度でした」 「撮れないよね、なかなか」  先輩はクスクス笑って、オレを見つめてくる。楽しそうな表情に、ん? と首をかしげると。 「宮瀬、星が好きなら、今度プラネタリウム行かない?」 「え、オレとですか?」  突然の誘いに、体の中の、奥の方の温度が少し上がった気がする。   「いいんですか、オレで」  思わず聞いたオレに、先輩は苦笑しながら視線を向けてきた。 「オレが誘ってんのに、そんなこと聞かなくていいと思うんだけどな」 「あ……確かにそうですね。つい、出ちゃいますね。こういうの」  オレは、ネガティブがしみついてる自分に呆れつつも、クスクス笑ってる先輩に、なんだか嬉しくなって。 「行きましょうか、プラネタリウム。一緒に」 「ん、行こうね」 「ていうか、山には誘わないんですか?」 「ん?」 「本物の」 「ああ……えーと。……だって今日ので疲れてたから」  先輩の苦笑に、ちーん、と撃沈。  すみません、と謝ると、先輩は、ぷぷ、と笑う。 「宮瀬が体力ついたらぜひ」 「が……頑張りますね……」 「うん。頑張ってください」  ふふ、と笑いながら、まだ星空を見上げる先輩。  ――ちら、と先輩に視線を流しても、気付いてない。 「あ、あの星、めっちゃ光ってる。綺麗」 「……ですね」  先輩は指差して言ってるけど。今だけは見る振りだけだして、返事も適当。  ―――ごめんね、先輩。今は、星じゃなくて、先輩のこと、見てたい。  どうしてこの人は、こんなに綺麗なのかな。  綺麗で。優しくて。カッコよくて。……可愛くて。  その瞬間、先輩がパッとオレに視線を向けた。  ばっちり目が合って、一秒二秒。  ドキドキしてると、先輩は、ふ、と笑った。 「ほんとはね。オレも、癒されに来たんだ」 「……え?」  癒されに?   ん? ……オレに??  首を傾げてしまうと、先輩は面白そうに笑う。 「オレも、皆とずーっと笑ってると、疲れる時もあるから。そういうの、宮瀬だけじゃないと思うよ」  意外、と思ったけど。そういえば、誘いに全部乗らないとか。  なんかそういうのも言ってたなぁと思い当たる。  まあそれでも、オレの疲れレベルとは、大分違うとは思うけど。 「……オレで癒されてくれるんですか?」  先輩が、きょとんとした顔で、オレを見つめてくる。  へんなこと聞いたかなと思った瞬間、先輩は、ふ、と照れたみたいに笑った。 「うん――そうみたい」  目を細めて笑う様に――心の中は。  近年まれにみるくらい、嬉しくなってる。  だって。  オレの推しの先輩が。ぬいにしちゃうくらい大好きな先輩が。  ぬいなんか作られてて絶対気持ち悪かったと思うのに、そう思わないでくれた大天使ミカエルな先輩が。  オレで、癒されるとか。  そんなことって、あっていいのかな。

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