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第14話 人選ミス

 星空鑑賞会をした後は、皆それぞれ自分のバンガローに戻っていった。布団をしいて、皆で寝転がっていろいろ話していたが、ぼちぼち寝る奴らが出てくると、電気が消された。昔ながらの豆電球。暗いけどいい雰囲気。  だんだん話す人も減っていって、オレは、先輩の声が聞こえなくなったあたりから、寝に入った。  いつの間にか、本格的に寝ていたみたいで、不意に目が覚めた時には、もう全員眠っていた。  静かに起き上がる。  十人も同じところに雑魚寝。ほんと、修学旅行とかそういうの以来だ。  先輩が居なかったら、このサークルには入っていないし、この合宿にも来ていない。  そう思うと、ここに居るのが、全部、先輩に起因してるって、すげーな、オレ。  どうなんだろ、それって。  思いながら、なんだか目が覚めてしまった。  トイレいこ。  立ち上がって、布団の間を静かに歩く。先輩が月明かりで見えたけど。  オレの家に泊まった時と同じ。頭だけちょこんと出てる。なんか潜り込んで寝るのが癖なのかな。  少し出てる頭だけで可愛いな……。  ふ、と口元がほころんだ。靴を履いて、そっとドアを開けて、外に出た。  外は、真っ暗で痛いくらいの静けさ。一応、調理場と、その隣にあるトイレはあかりがついてるけど。  真っ暗な中のうすぼんやりとした光は、余計怖く見える。  暗さが怖いなんて、久しぶりだな。  かといって、トイレ付いてきて、と誰かを起こすなんて、出来ないので、仕方なく歩き始めた時。  女子の居るバンガローのドアが静かに開いた。 「うわ、真っ暗ーこわいー」 「は、はやくいっちゃお!」 「うんっ」  そんな声にちょっとほっとしてしまう。  里山と石井だった。歩いているオレを見つけると、二人は、ぱっと笑顔になった。 「良かったー!! 貴臣もトイレ?」  もうすっかり呼び捨てになってる里山と。 「女子トイレの前で見てて~!! おねがい~!」  先輩のことが大好きな、石井。 「あ、いいよ。つか、オレもちょっと怖いなと思ってた。静かすぎるよね」 「うんうん」 「ほんとにっ」  二人はお互いくっつきながら、オレの後ろを歩いてくる。  人が怖がってると、冷静になるもんだな。少しおかしく思いながら、オレは女子トイレの出入り口が見えるところで止まった。 「行ってきていいよ。ここに居るから」  そう言うと二人は、ありがとーと言いながら中に入っていく。  オレは、ふ、と息をついて、空を見上げた。  空気が澄んでいて、星もクリアに見える。真っ暗な空に、キラキラしてる星。  ――先輩と山登りして、星見れたら……いいなぁ。  まあこういうところなら今でも来れるけど、山登りして見るのはまた、違う気持ちが起こりそう。  ……まあ、山登りは、大分ハードル高いけど。  と、そこで二人が「ありがとうー!」と言いながら、トイレから出てきた。 「戻れる?」 「うん、すぐそこだから」 「じゃあね、おやすみ」  そう言って、オレもトイレに入る。  ――個室、怖いな……見ないようにして、用を済ませる。  トイレが怖いって小学生か、と思いながら手を洗って外に出ると、二人が調理場のところで座っていた。 「あれ、どうしたの。怖いんじゃないの?」  そう声を掛けたら、二人は来て来て、と手招きをしてくる。  あそこに向かうのは、ちょっと苦手なことの部類に入るな。  でも仕方なく、二人の方に歩いていくと。  座って、と促された。仕方なく、並んで座ってる二人の正面に座ると。 「あのね、宮瀬くん、陽彩先輩と仲良しでしょ?」  石井がそう切り出した。 「バス、一緒に座る約束してたって言ってたし」 「あぁ……うん」  それ聞くの忘れてた。 「私ね、陽彩先輩が大好きで……ほんと、こんなに好きなの、初めてで」  そう言う石井は、なんだかいつもと雰囲気が違う。  寝てるとこだから化粧をしてないからか、いつもの派手さはないけど。  それで余計に、しんみりとした口調で言ってるのが、可愛く見える。 「そうなんだ……まあ、知ってはいたけど」  そう言うと、里山がクスクスと笑った。 「まあ皆、その気持ちは知ってるよね」 「まあオレでも分かるくらいだからね」  里山とオレのセリフに、石井は、そうなの……と俯く。 「今まではね、こんな風に、好きをアピールしまくってれば、大体向こうもその気になってくれて……」  ……結構すごいことを言ってると思うのだが。まあ、でも、モテそうな子ではあるよな。 「でもなんか、陽彩先輩は、なんか全然のってきてくれないというか……なんかフワフワしてて……そういうところも好きなんだけど……でも、どうしたらいいか分かんなくなってきてて」  んー、と眉を顰めて、オレを見つめてくる。 「宮瀬くん、協力してほしい……!」  ……おお。  オレに恋の協力を頼むとは。  かなりの人選ミスだと思うのだけれど。  おねがい! と手を合わせてる石井を見ながら困ってると、隣で、里山がオレを見て、声を殺すように目を背けて笑ったのが目に入った。  笑ってないで助けてよ。  と、ちょっと思ってしまった。

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