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第16話 眠れない夜。

「私ね、貴臣が入会した時、見てたんだよね」 「……入会した時?」 「うん。私、もうあの時入るの決めてて、先輩たちと一緒に勧誘してたの」  そうなんだ。あぁ、そういえば、勧誘を手伝ってた一年が居たとか……。 「私、貴臣がね、すっごい疲れた顔で歩いてきたの見ててさ。わかる~って思ってたの。勧誘、えぐいもんね。面白そうな人だなぁ、入らないかなぁって思ってたら、通り過ぎちゃって」 「……」 「そしたら、陽彩先輩が、追いかけて、声かけにいったの。その時、貴臣、すっごく先輩のこと見てたから……」  オレは、テーブルに肘をついて項垂れた。 「先輩が連れてきて説明したら、貴臣、すぐ入会してたし。もしかして、一目惚れかなあって、ちょっときゅんとしてて」  オレは、そのまま、テーブルに突っ伏した。  何この羞恥プレイ……。全部見られてるじゃんか。 「でも、サークル始まってからは、そこまで絡んでないし。貴臣も先輩に近寄ってく訳じゃないし、違ったのかなって思ってて……貴臣、聞いてるー?」  おーい、と里山がオレの髪の毛を、つんつんと、つつく。 「……聞いてる」  ため息をつきながら、起き上がるけど、なんか顔は見れずに、森の真っ暗な方を見つめる。  里山はちょっと笑って続ける。 「でもこの前のミーティングで近くに座った時ね。先輩が貴臣をぱっと見て、そしたら貴臣がスマホに気づいて、先輩の方を見て……なんか、ふたりで、頷いてるの、見えちゃって」 「……もういいや。分かった」  あの時だな。先輩にスマホで呼び出してもらって、ミーティングを抜けて、二人で中庭にいった時。 「あ、仲良くなってるって思ったの。しかも皆の前で話すんじゃなくて……バスも二人で楽しそうだったし。なんか、可愛いなぁって」  里山は、柔らかく、笑っている。 「……降参する」  ため息をつきながら。そう言った。 「……って何でそんなに見られてんの……はー……」 「ごめん、なんか、つい見えちゃって……可愛い感じで見えてるけどね」 「……もう無理」  頭を抱えると、里山は、クスクス笑った。 「でも、付き合いたいとか……そういう意味で、居る訳じゃないから」 「うん。それもなんとなく分かるよ。まだ、違うなーって。さっきのは、聞いてみただけ」 「…………」  なんとも言い難くて、黙っていると。 「なんかほら。このままだと協力したりさせられちゃったら、かわいそうだし」  悪戯っぽく笑う里山が、続ける。 「あ、そうだ。田中くんと、スポーツ苦手なのに何で入ったのっていう話しになったとき。私思わず可愛いって言っちゃったんだけど、覚えてる?」 「……あ、なんかそういえば……」 「あの時は、スポーツ苦手なのに、陽彩先輩に誘われたから入っちゃったんだなーかわいー、って意味でした」 「……つか、もう、ほんとむり」  頭を抱えるオレに、里山はくすっと笑った。 「別に、もうこれ以上は触れないよ。なんか困ったら、相談してくれてもいいよ。私、なにげに出会いから追ってるし」  冗談なのか本気なのか、いたずらっぼく笑う里山。 「大丈夫、もう聞かないから。もしなにか困ったら、話しくらい聞くよ。応援してるから」 「応援されても、そういう意味では、頑張らないと思うけど……」 「うん。それでいいよ。貴臣っぽいし。――だけど私、ひそかに、京香ちゃんより貴臣推しだから」 「……ちなみに、それはなんで?」 「貴臣、一生懸命な感じするから。まあ京香ちゃんは自分でガンガン頑張れるだろうし」  クスクス笑った里山に、苦笑。 「――なんかもう……里山には勝てないな絶対」 「そんなことないよう?」 「……いつか相談、する、かも……? いや、しないかな……」 「いざという時は、していいよ~?」  オレは、微笑む里山を見つめる。  サークル版の結愛が誕生したかのような……。頼りになりそう……。  なんだか可笑しくなってきて、オレは思わず苦笑しながら、里山を見つめた。 「ありがと」 「うん。じゃ、そろそろ寝よっか!」  にっこり笑う里山と別れて帰ってきたのだけれど。静かにバンガローのドアを開けて中に入り、皆の布団の隙間を歩く。先輩に視線を向けると、今度は全部隠れてて、見えなくなってた。  あ、完全に潜っちゃったのか。と、そんなことすら可愛く思いながら、布団に横になった。 「――――……」  なんか。  オレって、外から見ても分かるくらい、そんな態度で、先輩と居たのか。と思うと。  それってどうなんだろうと、考える。  他にも、オレを見てて、知ってる奴とか居るのかな。  ……いない、とも言えないよな。里山が実際、なんとなく気づいてたし。  里山がああいう奴だったから、こんな感じになったけど……  皆に話すような奴だったら……と思うだけで、ちょっと心臓がひんやりとする。  見惚れたりするのは、サークルではやめとこ……。  って自然と見ちゃうんだよなぁ……。  はーダメだな、オレ。  気をつけよ。変な噂とかになって、先輩に迷惑かかったら困るし。  よく分からない反省をしつつ、なんだか眠れない夜が更けていった。      

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