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第17話 男同士の。
朝は、隣接する施設でバイキングを食べて、バスで出発した。
古いお城や資料館を見学したり、土産物屋で試食をはしご。
いろいろ回っているうちに、あっという間に、帰りのバスの時間になっていた。
バスに乗り込むと、田中が近づいてきて、オレを見下ろしながら聞いた。
「ここいい?」
「うん、どうぞ」
田中とはもうだいぶ気楽に話せる。
どうでもいい話をしても、あまり気を使わなくても、笑っていられるようになってきたかも。
田中も最初は、完全陽キャだと思って、敬遠してたんだけど。
とりあえず、一人は克服。……克服っていうか。
実は最初から大丈夫だったのかな……。
人って、色んな面があって、「陽キャ」のひとくくりにしないでって、結愛が言うのも、少しだけ分かる気がしてきたような……。
「宮瀬、お菓子食う?」
「ああ、じゃあ、オレも持ってるよ」
「食おうぜ~」
期せずして、帰りのバスもお菓子交換を実施できた。結愛に報告しよう。
――しかも行きは、先輩とだったからなあ。
肩が少し触れるだけで、ドキドキして。
あの時間はやっぱり幸せだったなぁ……。
つか、田中と脚がぶつかろうが、手が触れてしまおうが、まったくもって何も感じないのにな、と思って、まあそりゃそうかと思いながら、苦笑が浮かぶ。
その後、帰りの高速に乗ったころには、みんな爆睡。
オレはなんとなく眠れず。
窓の外を流れる景色を眺めながら、昨日の夜の会話を考える。
――先輩と仲いいからって、協力してって言ってたな……。
まあ多分、オレには何も出来ないけど。どう答えればよかったんだろう。曖昧にしちゃったしな。
気持ちとしては、なんとなく、断りたいけど。
……たとえば先輩が、石井を好きになって、付き合ったら?
まあお似合いだよね。外見的には、ほんと。
あの二人が一緒に居たら、皆振り返るかも。
里山には、出会いから見られてたとか、すげー恥ずかしいけど。
でも、先輩に抱いてる気持ちが、完全にそういう気持ちだとしても、オレは、先輩には言えない。
受け入れられる未来なんて見えないし。
今、先輩が優しいのは、「可愛い後輩」だからだろうし。
先輩といる、穏やかな時間が、オレはとても好きだけど。癒されるって言ってくれてるのも、そこらへんだろう。
それを、恋だなんて意味づけしてしまったら。
そんなのがもし万一、先輩に知られてしまったら。
当然ぬいの件も、違う意味を持ってしまうだろうし。それこそほんとに気持ち悪いよな。うん。
オレが先輩と居たいっていう理由が、恋だからってことになったら、先輩はいたくないだろうし。
そんなのは、分かってる。
結愛が言ってた「駄目だと思ってるけどそれでも好き」みたいなのは。
両方がなりたたないと、やっぱり駄目だと思うんだよなぁ……。
昔、読んだ本に、生殖本能に思いを意味づけたのが恋だ、みたいなこと書いてあった。
「この男なら、自分と子供を守ってくれそう」っていう男が、女にモテるんだとか。
それを読んだ時、じゃあ、男同士の、生殖本能が絡まない思いはどーなんの、って思ってたけど。
今考えると、やっぱりそれが絡まなくたって。
好きなもんは、好き、なんじゃないのかなぁ……とも思うけどな。
…………何が言いたいんだっけ。
ああ、だからまあ。
でも、やっぱり、難しいよな、男同士の恋なんて。
親に言うのだって躊躇うし。友達にも躊躇う。
――そこには、躊躇うだけの理由が、やっぱり存在するんだ。
ぼんやり考えていたら、ふぁ、とあくびが漏れた。
まあでも……大学の間くらい。楽しい人と居られたらいいな……。
今回も、最初は「修行」だと思ってたけど、思ってたよりは、
楽しい合宿だった、来て良かったって、思えてるから。
まあ、良しとしよ。
そんな風に思いながら、目を閉じた。
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