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第18話 先輩と結愛とオレ。

 結局ずっと寝ていて、到着して、起こされた。  バスを降りて荷物をそれぞれがトランクから出し終えると、先輩達の挨拶。  そこで、ひとまず解散することになった。   「ご飯食べてく奴居るならこっち来て~」  先輩のそんな声かけに、近くに居たみんなも「食べてく?」と声を掛け合ってる。オレは、早めに断ろうと、頑張って声を出した。 「今日は妹が来るから、ごめん」  あ、そうなんだ、と皆普通に返してくれて、うまく別れられた。良い言い訳があって良かった。  一応挨拶はしたくて、白川先輩を探したのだけれど、もう姿が見えなかった。  食べに移動しちゃったのかもな……仕方ない。  解散場所は学校の駅だったので、皆と別れて、家に向かって歩き出した。  結愛、もうすぐ来るだろうからお弁当だけ買って帰るか。時計を確認して急いで帰ろうと足を速め、通りかかったコンビニで買おうかと、目を向けた時。  雑誌のところに立ってる先輩を見つけた。あれ? 先輩? 足を止めると、先輩がオレに気づいて苦笑した。  オレは店内に入って、先輩に近づく。 「先輩、どうしたんですか?」 「んー。ごはんは行くのはやめようかなと思って帰って来たんだけど……宮瀬も帰るの?」 「あ、はい。結愛が、昨日の話をしにくるんです」 「あ。イベントの?」 「担当者の人にも連絡したりするみたいです」  先輩は、そうなんだ、と頷いてる。 「じゃあ、頑張って、宮瀬。またね」 「あ、はい……」 「映ってた写真、楽しみにしててね」 「はい」  頷きながらも、なんだかちょっと先輩の表情が気になる。 「――先輩、あの、もしよかったら」 「うん?」  図々しいだろうか。  オレが一泊で疲れ切ってるのと同じ理由で先輩も疲れてるから、食事をパスしたのかなと思うなんて。しかも、その上で、オレの家に誘おうなんて。皆とは行かなくても、オレと居てくれるかな、なんて。  そんな誘い、図々しいかもしれないとは思ったのだけれど。  ええい。……断られて当然! 言ってみないと分からない。  そう自分を奮い立たせて、オレを見てる綺麗な瞳を、見つめた。 「オレんちで、ご飯食べません……?」 「え」 「あ、もちろん。疲れてたらいいんですけど。ゆ、結愛も……先輩に会えたら、喜ぶだろうし。あの……イベントとか、先輩、アドバイスとか、くれそう、だし」  ……っ。そういうとこだぞ、オレ!   もっと普通に話せないのか、なんでこんなにうろたえるんだ。どもるなよ!もう……。  話しながら自分を叱責してるオレ。  絶対おかしい誘い方だったけど、数秒後、先輩が、ふんわりと。  それこそ、花が咲くみたいに、優しく笑った。 「いいの?」  そう聞き返しながら、オレを見上げてくる。 「少し疲れてたんだけど、そのまま帰るのもなんかちょっと寂しい気もしてて。寄ってもいい?」 「もちろんです!」 「えーじゃあ、お弁当、買ってく? 結愛ちゃんの分も?」 「ぁ、はい。そうですね」  楽しそうな先輩の笑顔に、誘って良かった、と心底思いながら、いろいろ買い物してコンビニを出た。  歩き出したところで、後ろから、聞き慣れた声がした。 「お兄―、陽彩先輩―!」  振り返ると、結愛が駆け寄ってきた。結愛を挟んで三人で並ぶ、 「おかえりなさい。旅行楽しかった?」 「うん、まあ、それなりに」 「それなりにって。まあいっか、楽しかったなら何より。ってどうして、陽彩先輩、一緒なんですか? 会えてとっても嬉しいですけど」  思うままに素直に言って楽しそうに笑う結愛は、可愛らしい。  素直で可愛いって、きっとこういう感じだよな。結愛がモテるのは、分かる。 「夏休みのイベントの話、オレも一緒に聞きたいな、と思って」 「そう、イベントとか、先輩は得意そうだから……アドバイスとかもらえるかなって、誘ったんだ」  ……まあそれは理由付け、だけど。 「じゃあ、お兄、やるって決めたんだね。まあ私もやろうって説得する気満々だったけど」 「その圧は電話でも感じてた……」 「何よう、圧って」  そんなオレ達の会話を聞いて、先輩はクスクス笑ってる。 「結愛、ご飯は?」 「あとでコンビニ行こうかなと思ってた」 「良かった、買ってきたよ。先輩も半分出してくれちゃった」 「えっ、ありがとうございます」 「うん」  三人でオレの家に入る。先輩を迎え入れること、少しだけ慣れてきたのが、ものすごいことな気がする。  夕飯を食べ終えると、イベントについて調べて、参加条件などを確認した。  協力して文面を考えて、担当者の人宛てにメールを送信した。それから、SNSのチェックをしていく。 「そうだ、受注はしてないのかなーとか呟いてる人も見たよ」 「受注?」 「こういうのを作って、みたいな依頼を受けるの。でもそれだと、もしかしたら、そういう依頼を受けるサービスの方に登録した方がやりやすい気もするかな。今登録してるところは、できてるものを売るところだから。SNSのダイレクトメールで依頼を受けることも出来るけど、個人相手はトラブルあったらやだしね」 「結愛、なんでそんな詳しいの?」 「めっちゃ調べたんだよー! お兄のぬいをひろげるチャンスだと思って! なんかこんなに人気出るなら、仕事として成り立ちそうな気がして」 「仕事?」 「副業でこういうのを売ってる人も居るじゃない。お兄は、どっかでバイトするより、こういう方が、楽しいし、いいんじゃない?」 「なるほど……?」  なるほどと言いながら、いまいちよく分からない。分からないというよりは、そんなうまくいく? というのが正しい。

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