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第19話 夢中になれること

「そもそもそんなにうまくいくとも思えないけど……確かに幸先は良かったみたいだけど」 「まあまあ。とにかく、このアプリ、まず、お兄が管理できるようになってね?」 「ん、分かった」 「あとさ、お兄が昔作った、水族館セットとか動物園セットとか、めちゃ可愛かったじゃん。ああいうの、すぐ作れる?」 「作れるけど、そんなのって、世に普通にたくさんあるし……売れるかな?」 「んー……」  結愛は自分のスマホをいじって、先輩に「これなんですけど」と見せてる。 「あ、これが水族館セットってやつ?」 「こっちが動物園。これ可愛いですよね?」 「うん。すごく可愛い。やってみたら?」  二人にじっと見つめられて、作ってみるけど……と頷く。  ほめられると、やっぱり嬉しい気持ちはある。  その日、オレは先輩と結愛と喋りながら、せっせとぬいぐるみを作ることになった。  まあでも手慣れた作業なので、型紙はあるし、切って縫い合わせるだけだし。  しかも先輩と結愛もちょっと作業を手伝ってくれたりして。共同作業がかなり楽しかった。  作った側から、結愛がサイトに載せてくれた。  すると、そのぬい達は、他の話をしている間に、ぽつぽつと売れたりして。  結愛が嬉しそうに笑った。 「やば。売れるの、早い。お兄のぬいぐるみが、世間に認められてるってことだね。まあでも、可愛いもんね」 「可愛いよね」  結愛と先輩が言い合って、二人で顔を見合わせて、ニコニコしている。  オレはといえば、半信半疑。  今は売れたけど、この先も売れるとは限らないしな。なんて思っている。  ……多分そこの考え方が、ポジティブ二人と、ネガティブなオレとの、違いなんだろうなと、ぼんやり反省。 「大量生産してない、手作りだからさ。ちょっとずつ顔が違うとかも可愛いってなるよね。オレはそういう方がいいなあ」  先輩が言うと、確かに、と結愛がほほえむ。 「自分だけが持ってる感じ、とか、そういうの、好きですよね」 「うん、分かる」 「そういう価値があがったら、もう少し値段が上がっても売れるかもね」 「ていうかもともと、安く売りすぎたかもなぁ。相場、見てみようかな」 「うんうん、見てみよう」  オレを置いて、二人でどんどん話を進めていく。  二人がネットを見ながら対策を練っている中、オレはひたすらぬいを、縫い縫い。  ……ちょっとBGMみたいに聞こえてくる。聞き心地がいいみたい。なんかいいなあ。  しばらくして、先輩がスマホをテーブルに置いて、んー、と腕を伸ばした。  あ、とオレは顔をあげて、先輩を見た。 「疲れちゃいましたよね。休んでてくださいね」 「ううん。全然。なんかさぁ……宮瀬さ」 「はい?」 「いいなあ、夢中になれること、あって。そう思ってさ」  しみじみ言った先輩を、オレと結愛は、一瞬言葉を失って、見つめた。  なんだか少し、寂しそうな雰囲気を感じたからかも。  咄嗟に声が出なかったオレ。  結愛も、スマホを置いて、先輩に微笑んだ。 「先輩は、好きなこと、ないんですか?」  ……この感じで、それを、そんな風に聞ける結愛が、すごいなと思いつつ。  先輩の返事を待っていると。 「んー……カメラは、好きだったかも」 「あ、カメラですか? カッコいいですね」 「ふふ。宮瀬と同じ反応だ」 「え、そうなんですか?」  結愛がぱっとオレを見るので、オレは苦笑して頷く。 「カメラ、カッコいいよね。先輩のカメラ、カッコよくて」 「え、お兄、見たの?」 「そう。合宿で、先輩写真撮ってたから」 「ん? てことは、今持ってるんですか?」 「うん、持ってるよ」  ふふ、と笑う先輩に、結愛は前のめり感がすごい。 「見たいです、陽彩先輩!」 「結愛、ちょっと遠慮……」 「別にいいよ。持ってくる」  先輩が立ち上がって、玄関の方に置いていた鞄の方に歩いていく。オレが、こら、と結愛を見ると、結愛は、えへへ、と笑った。なんかもう結愛って、子犬みたいに見えるな。前のめり感がすごい……。  先輩が持ってきて、ケースから出すと、結愛は、大喜び。   「わぁ、カメラも先輩も、、カッコいいです~」 「……宮瀬兄弟、反応が同じ」  先輩、クスクス笑っている。  確かに今。ケースからカメラを取り出す、先輩の指先や仕草が。  すっごくカッコいいなと思ったけど。 「カメラは今、やってないんですか?」 「うん。久しぶりに出したね」 「そうなんですね」 「あ、見てみて、宮瀬がモテモテなとこ」 「えっ!!」  結愛がばっと先輩のカメラを覗き込む。  「あっ」と思った時には遅かった。 「お兄が超女の子たちに囲まれてジャガイモ持ってる……」  クスクス笑ってる結愛に、「たまたま、その瞬間……」と、変な言い訳をする。  結愛に見られたくなかった写真だけど。……まあいっか。二人、楽しそうだし。

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