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第20 先輩と、カメラ
「わあ、星、すごく綺麗ですね」
結愛が驚いたように瞳をきらきらさせながら、星の写真を見ている。あれはオレといた時に撮ったやつかな。
綺麗だったなぁ。昨日、あの時間が一番楽しかった。
「カメラが良ければある程度は撮れるから」
「いえ! 違います、先輩の腕がいいんです!」
「結愛ちゃん、カメラ分かる?」
「撮る方は分からないですけど、写真がイイかは分かる気がします!」
うふふ、と笑ってる結愛に、先輩は、そっか、と楽しそうに笑う。
「今は大学で忙しいから撮ってないんですか?」
「んー……何て言うか……高校の部活でコンテストとか出したんだけど、結局全然ダメだったから……ちょっと休憩、て思ってそのまま、かなあ」
ぬいを縫い縫いしながら、内心はフリーズ。……そうだったのか。
それでやめてたのか。……しらなかったとは言え、カッコいいだのなんだの……無神経だっただろうか。
うんうん考えているオレの目の前で、結愛は、「仕方ないですよね」と肩を竦める。
「そういうコンテストってめちゃくちゃ狭そうですもん。皆、自分の写真がイイって思ってる人達がたくさん頑張って出してるので……結局は、運、て気がします。先輩の努力が足りないとか、才能がとかの話じゃないです」
「――――……」
あああ、結愛。お前は、ほんと……。
先輩の昔の話を聞いてからの、結愛の悟り。もうなんか、どう止めたらいいか分からない。
先輩は、結愛の言葉を聞き終えると、えっと……と手を顎のところにあてて少しの間考え込んでいた。
で、オレはその間、何をここで言うのが一番いいのか悩みまくっていたら。
先輩は、不意にクスッと笑いだした。
――先輩……?
大丈夫ですか、結愛がなんかすみません……と思うがそれも出てこない。
すると。
「そうだね。……ほんとそうかも」
クックッと笑う先輩は、ふ、とオレを見つめる。
「なんか、結愛ちゃんて……大人だね」
「なんかすみません……」
「いやいいよ。……そうだなって、思った」
「――先輩……」
「そうですよ、絶対。だから、撮りたかったら、いっぱい撮ったらいいと思います。ていうか私、先輩の写真好きです。サークルの人たち、知らない人ばかりですけど、すごく笑顔だったり、面白い顔してたり、生き生きしてて大好き」
「……宮瀬」
「はい?」
「結愛ちゃん、オレの妹にしていい?」
「えっ」
「いや、冗談。本気にしないで」
ふっと笑い出して、先輩は、結愛に「ありがと」と言った。
……別に本気にしたわけではないんだけど。
ああ、なんかそんな風に思ったんだな、と。
結愛はすごいな、と。思ってしまった。
……BLが人生の教科書って言ってるんだけど……何か学ぶところがあるのだろうか……?
「先輩先輩、私ひとつお願いがあって……」
「うん。いいよ、何?」
「結愛、へんなこと言うなよ?」
「変なことってなによう!」
もう、と口をとがらせて、また先輩に向き直る。
その手には、オレのぬいたちが抱っこされている。
「この子たち、写真、撮ってくれませんか?」
「あ、カメラで?」
「はい!」
「いいけど……こういうのは撮ったことないなぁ」
うーん、と言いながら、結愛の手からぬいをいっこ受け取って、自分の前にぽん、と置いている。
「先輩、断ってくれていいですよ」
オレが言うと、結愛が「お兄、しっ!!」と口に指を立てて一生懸命な顔をしてる。……しっ、て。
苦笑してるオレを見て、先輩も笑いながら。
「別に写真とるくらい全然いいよ。ただうまく撮れるかはどうかなぁ」
「なんか、手作りのサイト見ててすっごく可愛い写真とかあるんですけど……一眼使ってるって書いてる人、何人か見かけて……まあスマホでもある程度は撮れるんですけど、なんか全然違って見えるので、試してみたいなーって思ってたんです」
「まあ、スマホとは違うかも。 撮ってみようか」
「お願いします」
わーい、と嬉しそうな結愛。
……結愛の人を頼ったりする能力って、すごいよなぁ……。
あと、なんか、人を元気にするとこも。
……オレが居たから自己肯定感つよいとか言ってたけど。
結愛の性質というか、持って生まれた感じが大部分ではなかろうか。
羨ましくもある。
先輩が一枚、ぬいを撮って、確認してる。
カメラを構える先輩は――なんか、死ぬほど、カッコいいなと、思ってしまう。子気味の良い、シャッター音すら。本当にカッコよく思えて、なんか胸が、締め付けられる。
「うーん……なんか違う気がする。ちょっと待って、撮り方調べてみる。コツがあると思うんだよね、可愛く見せる」
「あっ私も調べます」
「うんうん」
また楽しそうな二人を見つつ、オレはただひたすらぬいを縫う。
……お前らも、可愛く撮ってもらえるかもしれないぞ、と。
手の平のぬいたちに心の中で話しかけつつ。
もっと可愛くしようと思ったりしている。
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