46 / 59

第21話 マジ天使

 しばらくネットを見ていた先輩が、ちょっと顔を上げた。 「なるほど……結愛ちゃん、背景、可愛いと良いみたい。花とか、可愛いものあるかなぁ。綺麗な布でもいいよ」 「探してきます!」  言いながら、結愛がオレの宝箱を漁り始める。 「目にピント合わせると、可愛く写るらしいよ。あとは……柔らかい自然光か……今は無理だから、電気が強すぎない場所にして……背景ぼかして……F値下げて……」  先輩がスマホを見ながら、ぶつぶつ言ってる。  ――なんか、真剣。オレの口元が、綻んでしまう。  一生懸命になるもの、あるじゃん。  めっちゃ真剣だ。  ふ、と皆を撮ってる先輩を隠し撮りしたのを思い出した。  あれ、めっちゃいい写真だったよなぁ。いつか見せたいな。偶然撮れてたってことにできるかな。  だってなんか……一生懸命になってたの。見せたい気がする。 「先輩、この布、綺麗です?」 「あ、いいね。光沢あって」  二人で楽しそうに、撮影の準備をしているのを何となくチラチラ見ながら、オレは作業を進める。 「撮ってみようか、とりあえず」 「はいっ。楽しみ」  先輩が一眼を構えて、カシャッと撮影。何枚か、角度や距離を変えて、撮ってる。  結愛も今は、さすがに静かにしてる。ちゃんと雰囲気読むとこは、さすが。  ふ、とカメラを持ち換えて、画面をのぞき込む。結愛も隣から、覗き込んでる。 「お兄お兄」  結愛に手招きされて、立ち上がって、覗き込む。 「――わ」  違いが分かるかなと思いながら、覗き込んだ。  見た瞬間、オレでも分かった。スマホで撮ったのとは、全然違う。  ふわっとした柔らかい感じや、黒目にしてるプラスチックがつるんとしてて、小さな光が映りこんでる。  なんか生きてるみたいだ。 「どう?」  先輩が下からオレを覗き込んでくる。 「……すっごいイイです。可愛いです」 「あ、ほんと? うん、さっき試しに撮ったのより断然いいみたい」 「いいですね、ほんとにこれ……」  しみじみ言ってると、結愛が隣で、うんうん頷いている。 「先輩、これ、お兄とか私に送ってもらうことできますか?」 「家に帰って、パソコンと繋げたら、送れるよ」 「あ、じゃあお願いします。載せてみたいです」 「了解」 「すっごい。やっぱり、一眼レフカメラ、ほしくなっちゃいますね~。あ、お兄、もっと売り上げ出たら考える? 安いのもあるみたいだから」 「でもオレじゃ、宝の持ち腐れにならないかな……」 「はっ。……確かにそれは……」 「確かにって言うなよ」  苦笑してるオレに、あははーと笑う結愛。  先輩は結愛の顔を見てから、ゆっくりオレに目を向けた。  何か、言いたげな……? 「先輩?」 「――あのさ……」 「はい?」  珍しく、言葉に詰まってるように見える先輩。  オレと結愛が、思わず顔を見合わせてから、もう一度、先輩に視線を向けると。 「……オレ、写真撮ろうか? 大学帰りにここ寄って、写真撮るくらいなら、いつでも出来るし」 「「えっっっっ」」  オレと結愛、一緒に、かなり大きな声で、重なった。  先輩は、びく、と引いて、苦笑した。 「いや、いらないなら無理にってわけじゃ」 「いります!!! 要らない訳ないじゃないですか……!! ねっ、お兄!!」  オレが言いたい言葉を特大のボリュームで叫んでから、オレに視線を向ける結愛。先輩も、オレを見てる。 「良かったら一緒に、手伝ってもらえませんか? イベントのぬいとかも、これから写真とか必要だし、作り方とかも……色々……」  オレが喋ってる途中で、先輩は、にっこり微笑んだ。 「手伝わせて。イベントも手伝いたいし、SNSとかも。可愛く撮れるように、勉強するから」  隣で結愛が、きゃあきゃあ喜んでいる。  マジ天使だ。  感動でちょっと泣きそう……。  可愛い写真も嬉しいけれど。  先輩と一緒に、ひとつのこと、できるなんて。  嬉しすぎる。

ともだちにシェアしよう!