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第24話 先輩公認で、先輩くん?
家に近づきながら時計を見る。
二十一時前か。合宿帰りだから疲れてるよな。いろいろやってもらっちゃったし、明日も学校だし。そうだ、合宿の荷物もあるし、片付けないとだし、やっぱり、もう帰りたいよな、先輩。
きっと家についたら、玄関の鞄を取って、そのまま、帰っちゃうよな。
あーどうしよう、でももうちょっと一緒に居たいから。
先輩の家の方のコンビニに行きたいとか言って、送ろうかな。
と。ここまでほんの数秒。も無いかも。一瞬でいろいろ考える。
声に出る部分が少ないだけで、陰キャが心のなかまで静かだと思ったら、大間違いだと思う。
ただ、外に出ないだけ。
……つか今の全部外に出たら、先輩が怖がっていなくなりそうなので、死んでも外には出すつもりはないが。
これだけ考えて、オレが言葉に出したのは。
「先輩、このまま帰りますか?」
だけ。ものすごいコスパ悪くないか? 考えるのにかかった脳のスペースとか、時間とか。全部無駄。
と、またよく分からないことを考えるオレの脳みそ。
その隣で、先輩は、そうだね、と頷いた。
外灯に照らされた横顔が、なんだかいつもと違う感じ。
……綺麗だなぁ、先輩。と、しみじみ思ってしまう。
にしてももう帰るよな。もうすぐ二十一時だし。そっから風呂入って……?
「先輩って、いつも何時くらいに寝るんですか?」
「二十三時くらいかなあ。早いと二十二時くらい」
「健康的ですね」
だから肌とか髪の毛とかツヤツヤしてるのかな。うんうん。
なんて思っていたら、「宮瀬は?」と聞かれた。
「オレは……縫い始めちゃうと気づいたら時間が経ってたりして。遅いと二時とか」
「オレ、超熟睡してる時間だ」
先輩がクスクス笑う。優しい笑い声が少し涼しい夜風に混じって、響いて。なんだか、胸が。痛い。
「睡眠不足はよくないよ~夜更かしも。早く寝て早く起きた方が……って、お母さんか、オレ」
途中で自分でおかしくなったらしく、楽しそうに笑い出した。
先輩がお母さんなら、幸せだろうなあ…………? ってマジでよく分からないな自分の思考にちょっと眉を顰めていると。
「あのさあ、宮瀬」
「はい?」
先輩は、オレのことをじっと見つめる。
「さっきの話でさ。オレが手伝う、お礼とかいってたやつなんだけどね」
先輩の声がなんだかとっても柔らかい。
何を言うつもりなんだろうと、頷いて待っていると。
「お願いがあるんだけど」
「もちろん。オレに出来ることなら」
「オレにも、ぬい、作ってくんない?」
「――いいですけど……それでお礼になりますか?」
「うん。可愛いから。オレの部屋に一体、おいときたい」
それはなんだか、素直に嬉しいかも。
「あ、じゃあ、何がいいですか?」
「んー……何だろ。何がいいかな?」
「割となんでも、ぬいにできますよ。動物とか、キャラとか……人も、ちょっと似せたりできますけど」
「へえ……あ、人、ね」
そうだなぁ、としばし考えていた先輩は、あ、と思いついたみたいで、キラキラした瞳をオレに向けてきた。
「オレのぬいの、別バージョンがいいな」
「――――え?」
「え?」
先輩の発言にびっくりして先輩を見つめると、先輩も、首を傾げた。
「何でそんなに驚くの?」
「何でって……」
え、それにはちょっとびっくりだよね。
だって、あの、先輩くんの一件、気持ち悪いとならなかっただけですごいと思ってるのに、もういっこ、作っていいとか。そんなこと、ある? と、思ってしまった。
「だって、気持ち悪くないんですか? オレがもう一体、先輩を作ってもいいんですか?」
「気持ち悪くはないってば。ていうか、あれ、可愛いから。なんか今、ほしいなって思って」
「作っていいなら、もちろん作りますけど」
「なんかあれ、宮瀬が一生懸命作ってくれてるのが目に見えるって言うか……すごく可愛かったし」
そんな風に言ってくれる先輩に、戸惑いながらも、胸の温度だけがどんどん上がっていく。
――まあ、確かに。愛情と思いはたくさんこもってるけど。なにせ、先輩のだから。当たり前。
本当にいいのだろうかと思ったけれど、先輩が楽しそうにオレを見ているので。
……先輩公認で、先輩くん別バージョンを作れる機会なんて、今を置いたら無い気がする。
「――分かりました。じゃあ、どんな服とかがいいか、考えてください。アクセサリーとかも」
「オッケー分かった」
「すっごい可愛いの、作りますね」
「うん。楽しみ。すごくない? 自分がぬいになるとか。それ家に置くとか。めっちゃ楽しい」
ふふ、と笑う先輩に――なんだかすごく、救われた気分になる。
もちろん、今までもずっと、救われてるんだけど。
本当に気持ち悪いと思ってないんだな、とか。
喜んでくれるんだな、とか。
嬉しいし、そんな風に言ってくれる先輩が、好きすぎる。
「オレ、先輩のぬいなら一番可愛く作れる自信があります」
「――え」
ぱ、とオレを見る先輩。
じっと見つめられて、オレは、ふっと、自分の言った発言内容を考え直す。
はっ。ぬいとは言え、先輩のぬいなら一番可愛いとか、調子にのりすぎたか?
たまに考えずに言葉が溢れる癖をどうにかしなければ。
しまった、と思いながら先輩を見つめると。
「宮瀬って……オレのこと可愛いって思ってる??」
先輩がちょっと困ったように苦笑しながら言ってくる。
だらだら冷や汗が流れそうな感覚で。
「ま……まあ……そう、ですね。っていうか、誰に聞いても、カッコいいし、可愛いっても言うと思います、けど」
「――そう?」
咄嗟に、オレがじゃなくて、「誰に聞いても」と、不特定多数のせいにするオレ。
でも絶対、どもってるの分かってるだろうし、今の心臓のバクバク、ばれているのでは……。
夜風は、冷たいのに、頬だけが熱くて。ちょっと先輩から、顔を逸らしてしまう。
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