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第25話 昔のオレ

 気まずい沈黙が流れる。うう。コスパ悪いくせに、たまにあまり考えずに。多分結構強く想ったりすると、出ちゃうんだよな。  このバランスが悪いのも、人付き合いに困るとこというか……。  普段喋んないくせに、急に熱量高く何言ってんの。  ……と思われてるんじゃないかと、勝手に想像してしまうネガティブ思考も働く。  そこが掛け算されるから、余計難しいんだよな。 「あの……すみません、可愛いとか、やですよね」 「……んー」  うーん、と首を傾げながら、先輩がちょっと俯いてる。  ……先輩? めっちゃ嫌悪感を耐えてたらどうしよう……と、顔が見えるように首を傾げてみると。  先輩は、ちょっと困った顔をしていて。  かと思ったら。 「ていうか、オレ、年上だし。後輩に可愛いとか言われると、ほんと照れるし」  手で、パタパタと顔を仰いでいる。 「急に言うと、相手、えってなっちゃうから。女の子には気をつけてね」 「あー……はい」  てか、普段、先輩以外には、言ったこと無いですし、多分、思ってないから、言うこともないと思います。綺麗な子だなあ可愛い子だなぁというのは、分かるけど。  心の底から、可愛いなぁと、繰り返し思うのは、一人しか居ない……。  先輩って、人のこと。「こいつ気持ち悪いな」って思うこと、ないのだろうか。  先輩に対するオレって、けっこう……まあ、そこそこ……? かなり……? あれだと思うのだが。 「ていうか、オレ、年上だし。可愛いっておかしいでしよ」  とか言いながら、パタパタしている。  ああ、なんか――ほんと、可愛い人だな、なんて思う。 「……先輩って、好きなひと、いるんですか?」 「……今度は何、急に」  先輩が苦笑したのを見て、……はっ。確かに。と、気付く。  何を急に聞いてんだ、オレは。……ってこれも、急に、ではない。  なんか、可愛いなあって思って……今一緒に居られるのが嬉しいなって、なって。それで、何でオレと居てくれるんだろうって、なって。  そしたら、あ、今は先輩に彼女とか居ないからかな、と思って。  そう言えば先輩、好きなひと、居るのかな。  あー、居たら、その内絶対付き合っちゃうんだろうな。だって、先輩が振られるところなんて、全く想像できないから。  先輩に好きな人が居る時点で、遅かれ早かれ彼女できるのは確定だから……。  先輩に彼女出来たら、もうこんな風に時間とってもらえないよな……  今好きな人が居るのか、聞いてみたいな。居ないといいのだけど。よし。  っていう思考の流れがあったので、オレの中では、全然急ではないのだけれど。  まあ先輩にとったら、「急」だったかも。  見た目は結愛のおかげで少し変わったとしても、うまくいかないのはそういうところだと、反省していると、先輩はクスッと笑ってオレを見た。 「なんで急に聞いたの?」 「えーと……あの、昨日今日で、先輩を好きな人はたくさん見ましたけど……」 「どういう意味?」 「いや、合宿で長く居ると、いつもより余計見えるというか……? 先輩にくっついてる女の子たち、いっぱい見たので」 「……そういう意味じゃない子も多いと思うけど」 「先輩は、あの中に好きな人、いるのかなぁって」 「――んんー……?」  先輩はなんだかすごく考えながら、ちょっと頷く。 「……まあ、ちょっとだけ、好きかなって思うひとは……いるけど」 「――――」  頭をとてつもなく固いもので、こわーんこわーんと殴られた気分。  頭の中で、激しくうるさい音が鳴っている。 「……ど、んなひとですか?」 「んー……素直だし、優しいし。なんかすごく、可愛い、かな……」 「……なるほど」  ショックではあるが、先輩が選ぶ人としては、そこ基準なのは、ちょっとは諦めがつく。  見た目が可愛いとかよりも、中身重視なのも、先輩っぽい。  素直で可愛いか。いいなあ。  そういう子だと先輩は好きになるのか。まあ、ぴったりだとは思うけど。  ……どの子だ??  サークルの子、思い浮かべていると、先輩がふっとオレを見た。 「宮瀬は? 宮瀬だって、結構モテてると思うけど」 「それはないですね。モテては無いです」 「なんでそんな即答? ほら、里山とか」 「里山? いや、確かに山登りも一緒になったので、結構話はしましたけど……オレ、話したくらいで好かれたこと、ないですよ?」  あと里山は絶対違う……。いろいろもろもろバレているだけ……。  はっきり言い切ると、先輩はきょとんとしてオレを見て、苦笑している。 「なんでそんなには言い切るかなあ……」 「だって、無いです」 「宮瀬ってさぁ……外見変えたって言ってたよね?」 「はい。まあ、多分……別人です」 「……待って。見たい」  肩を震わせて笑ってる先輩の、セリフに、ん? と首を傾げる。 「何をですか?」 「……っ昔の、その変わる前の宮瀬。見たい」 「え゛っっっ! い、嫌……ですね、かなり」 「なんで? 別に昔が、ものすごく特徴的……? だったとしても、今の宮瀬は宮瀬だからさ~いいじゃん、見せて?」 「な、なんで見たいんです、そんなもの。お目を汚すだけです」 「……っっもうなんだよ、それ。面白すぎるんだけど……」  ぷは、と噴き出して、めっちゃ楽しそうに笑ってる先輩と、ちょうどそこで、家についてしまった。

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