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第26話 結愛の功績

「今、鞄出しますね」 「あ、うん」  鍵を開けて、先輩の鞄を持って外に出る。 「ありがと」  荷物を受け取った先輩は、肩にかけながら。 「今度、昔の写真見せてね」  先輩がクスクス笑うので、はぁ、と曖昧に返事しながらちょっと考える。  ジャムのお土産。  渡せないかな。  やっぱ、おかしいか。皆で行った合宿で、同じお土産屋さんに居たのに、先輩のだけ特別に買った、なんて。  やっぱり、やめとこう。自分で食べるか。なんか、あれ、紅茶に入れたら、フルーツティーになるとか……ほんとかな。試してみよう。  先輩の家の方のコンビニに行く振りして途中まで送ろう、そう思って、家のドアにカギを差し込んだ時。 「宮瀬、これ」  バッグをごそごそしていた先輩が、何かをオレに差し出した。  さっき、結愛に渡したのと同じ、おみやげ袋。 「これあげる」 「……え、なんですか?」  受け取って、中を見ると、結愛にあげたジャムと同じもの。 「これって……」 「なんか、可愛くて気が引けるとか言ってたから。そんなこと言わないで、食べなよ」  ふふ、と笑う先輩に、数秒動けなかったのだけれど。 「じゃあまたね!」 「先輩!」  手を振って離れていこうとしてる先輩の手を掴んで、オレは、引き止めた。 「え。なに??」  びっくりした顔でオレを見る先輩に、「ちょっと待っててください」と言って、ドアを開けて玄関に入る。バッグから、同じお土産袋を取って戻る。 「先輩、これ」 「ん? え?」  先輩は、二つに増えたお土産袋を見てなんだか不思議そうな顔をしながら、中を覗く。それから、更に不思議そうな顔をして、オレの持ってる袋を覗いてくる。 「何で? あ、買ってたの?」  なるほど、と変な納得をしている先輩に、違うんです、と告げる。 「先輩がおいしそうって言ってたので……結愛のと一緒に、先輩にも買おうと思って……なんかいろいろ、感謝……というか?」  オレの良く分からない説明を聞いて、先輩はしばらく考えていたけれど、あ、と気づいたようだった。  どちらからともなく笑いが零れて、少し照れくさい沈黙。 「お互い同じの買い合ってたってこと?」 「そう、みたいです」 「そっかぁ……なるほど。じゃあ、交換ってことでいい?」  クスクス笑う先輩に、なんかもう、嬉しくなってくる。はい、と頷いて、二人で顔を見合わせる。 「先輩、この中の何ですか? ジャムの他に……」 「あ、焼き菓子が横にあってさ。つけて食べてって書いてあったから」 「そんなのありました?」 「うん、あった」  気付かなかった……。 「先輩、もし、時間、平気だったら、一緒に、食べていきません? なんか、これ、紅茶に入れるとフルーツティーみたいになるって書いてあったので」 「――宮瀬が良いなら」  時計を見ながら言った先輩に、頷いてどうぞどうぞと、ドアを開けた。 「帰り、送りますね」 「送んなくていいけど。ていうか、気が合うねー、オレ達」  クスクス笑う先輩の何気ない言葉が、すごく嬉しかったりする。  紅茶を入れて、焼き菓子も少しトースターであっためて、皿に置いた。  二人、向かい合わせでローテーブルに座る。    ジャムをスプーンですくって紅茶に落とすと、紅い雫がゆっくり広がる。 「なんか綺麗だね」  そう言って、先輩が微笑む。  一口、含んでみると、ほのかに甘い。焼き菓子も、ちょうどいい甘さで、美味しかった。 「おいしいですね」 「でしょ? 書いてあったもん、お茶と一緒に、って」  同じ焼き菓子にジャムをぬって、同じようにかじって、微笑む。  ――なんか、嬉しいなぁ。  そういえば、と先輩がオレを見る。 「もうすぐ、試験じゃん? 宮瀬たち、初めての試験だもんね。頑張れー」 「……あの、今言わないでもらっていいですか。今せっかく、良い感じでまったりしてたのに」 「だってなんか、もう六月も終わるなーと思ったら。授業のノートとか、ちゃんとある?」 「ありますよ。休まず授業は出てるので」 「偉いねー」 「陰キャは、授業とかサボる勇気が無いんです」 「陰キャ関係あるの?」  クスクス面白そうに言う先輩に、あります、と頷くと、ふふ、とまた笑われる。 「まあ出てるならいいけど。でもさ、とりあえずテストが終わったら、イベント準備だよね」 「サークルは、休みになるんでしたっけ?」 「そうだね、活動は休み。でも、あのミーティングは普通にあるから。もうあの時間のあの教室、月単位で借りに行っちゃってるからさ」 「そうなんですね」  じゃあ、とりあえずそこで先輩に会える訳か。 「写真撮る時とか、呼んでね。歩いてすぐ来るからさ」 「――――」  オレは先輩の顔を、まじまじと見つめる。 「え。何その顔。オレ、撮るんだよね?」 「……」  オレは、慌てて頷いた。  そっか。え。てか、呼んでいいの。先輩を、ここに、そんなに気軽に。  じゃあ、ミーティングに行かなくても、会えるのか。  夏休みも?   なんか今更なことにちゃんと気づいて、オレは。  カメラを先輩に出させた結愛の功績に、心から感謝した。

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