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第3話 ぷっくりなクマ?
送るのに困ったが、でもどうしても一緒に行ってほしい。
「先輩、テスト、お疲れさまでした。
あのイベントの件なんですが、今度高校の家庭科室を借りられることになったんです。一緒に行って、作業風景とか写真に撮ってもらえたらと思うんですが、どうですか……? 来週の、土曜なんですけど」
文章を考えるだけでもかなりへとへと。
さらに送信ボタンを押すのに、かなり勇気が必要だった。指が泳ぐ……。
送信ボタンを押した瞬間、胸の奥がザワザワして、既読がすぐについて、もう心臓はバクバクうるさすぎる。
すぐに返事がきた。
『宮瀬、久しぶり!』
あ。久しぶりって、書いてある。
……書けばよかった。
『全然、連絡くれないんだもん。もう忘れられたのかと思ったじゃん』
そんな訳ないし。忘れるとか。ていうか。
何ならずっと、先輩のことは頭に会ったし。
……なんか先輩の言葉、可愛いな。
じわと、涙でも浮かびそうな、そんな感覚に襲われる。
『先輩のオレから連絡したらさー。後輩の宮瀬は、テストヤバくても時間取りそうだし。だから連絡取れなかったんだよね。ご飯くらい、一緒に食べてもいいかなと思った時もあるんだけど』
忘れずにいてくれたばかりか、そんないろいろ考えてくれていたのかと思うと。
ほんとに感動で、泣きそうな気持になっていく。
『オレ、休憩の時とかに、ぬいの撮り方とかめっちゃ勉強してたのにさ、なんかもう、このまま無しになるのかなとか、ちょっと思っちゃったじゃん。はー。薄情だなー宮瀬』
なんだかぷっくりと膨らんだクマみたいな絵文字が最後に入っている。
可愛くて、ふ、と顔が綻んでしまった。
――先輩の言葉は。
会えない間に、超ネガティブになってたオレのぐちゃぐちゃを、一瞬で晴らしてくれた。
実は、思っていた。
手伝い、もうめんどくなってたり? とか。
写真、撮らなくなってたのに、無理やりさせちゃった感じかなあとか。
……オレなんて先輩にとったら、数多く居る仲間の一人だよな……とか。
言葉にはしないようにしていたけれど、どうしても頭のすみっこのほうにあった気がする。
だから。テスト中とは言え、少しの連絡すら。送れなかった、ということだと思う。
『すみません、先輩のテストのお邪魔になったらと思って……』
それは嘘ではないので、そう送ると。
『オレ、宮瀬とちょっとスマホで連絡とったりするくらいで、単位落としたりしないし』
またぷっくりなクマ。
――可愛すぎてもう無理。死ぬ。
文字だけじゃたりなすぎて、オレは、思わずそのまま。勢いで、発信ボタンを押していた。
『……宮瀬?』
「はい」
『……超久しぶり』
あ。超、だって。超久しぶり。
……そっか、先輩にとっても、ちゃんと、久しぶり感、あったんだ。
電話越しに聞けた声が。胸の奥まで、届くみたい。
なんかもうそれだけで。久しぶりと言ってもらえただけで。
会えなかった期間が、報われるような気がした。
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