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第4話 らしくない。

「電話してすみません」 『なんで謝んの。いいよ』 「……先輩、あのクマ、可愛いですね」 『クマ?』 「絵文字です」 言うと、先輩が、電話の向こうでクスクス笑う。 『あれはちょっと、宮瀬の薄情に怒ってるオレを表現してみた』 「ああ……すみません」 『だってさー他の二年とか三年とは連絡してたんでしょ?』 「……あれは」  テストとかレポートの話で、と言おうとしたら、先輩が続けた。 『なんか随分慕ってたみたいじゃん』 「え、なんですか、それ」 『宮瀬に随分頼られちゃって~意外と可愛いなあいつって言ってたよ』 「意外と……」 嬉しいのか嬉しくないのかよく分からない。 『あの顔であんなに頼られると可愛いかも。陽彩が仲良くしてんのも分かるーとか言われてさ』 なんか、先輩、ちょっと口調が怒ってる。……拗ねてる? 『ていうか実際、全然オレには連絡来ないから、仲良くないけど、て言っといた』 「ええっ……」  そんな……と、思った瞬間、ふふ、と笑う先輩。 『最後は嘘だけど』 力が抜ける。嘘なのか。……心臓によくない。 『でもその前まではほんと。なんか宮瀬のこと、可愛いとか言いだして。何したの?』 「いや、あの……テストとかレポート、頼っただけなんですけど……」 『ああ、でも、宮瀬、たまに子犬みたいな目で縋るから……なるほど、なんか分かった』 うんうん、と頷いてる先輩に何だか、オレは納得がいかない。 オレ、子犬……。ていうか、先輩以外には、尻尾振った気はないんですけど……! と言いたいが、なんか、言えない。 『まあいいや。テスト終わりの今日連絡してきたから、許してあげよう』 「あっ。ありがとうございます」 『うん――なあ、それでさ。来週の土曜で、時間は?』 「あ、午前九時から、終わるまでです。お昼持参ってことにしてます」 『おー。やる気だね』 「はい。――先輩は、どうですか?」  少し困ったように唸りながら、時間が空いた。 『バーベキューに誘われてて』 「あ……」 『サークルの二年で行こうって……まあでもしょうがないよね』 「そう、ですね……」 確かに。先約があるなら、しょうがない。 めちゃくちゃ落ち込んでるが、分かりました、と言おうとした時だった。 『断ってみる。電話してくるから待ってて』 「えっ」 「ん?」 「いいんですか? 先に約束……」  そう言うと、先輩は、あはは、と笑った。 『何言ってんの? 宮瀬との約束の方が先じゃん。手伝うって言ったし。バーベキューはオレが居なくても、出来るじゃん』 「……でも」 先輩と一緒に行きたいから誘ってるんだろうし。先輩のこと好きな人達、いっぱいいるのに。 ……先輩は、いつも、「オレがいなくてもいい」って言うんだよな……。 なんかそこだけ少し先輩らしくなくて――ちょっとオレのネガティブと絡む。なんなんだろう。 『断ってくるから待ってて』 電話が切れて、スマホをテーブルに置く。  嬉しいけど。  なんか、気になる。

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