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第5話 楽しみ
イベントの準備を進めながら、テーブルの上のスマホがずっと気になっている。
すぐ向こうと連絡がつくとは限らないしと、分かってはいるのだけれど。
胸がざわついて、落ち着かない。
断ろうとしてもめるとか……いや、ないかな、先輩は上手そうだし。
でもなんか不安で。
少しして、着信音が鳴った。慌てて、通話ボタンを押す。
「あ、先輩?」
『あ、宮瀬。断ったよ』
「あ。はい。って……よかったんですか? 断って大丈夫でしたか?」
『うん。別に。また行こうなって言って終わった。だから来週の土曜は平気』
軽い口調の先輩に、戸惑いつつも。
でもほっとしたし、同時に、胸の奥がきゅっと熱くなる。
「……ありがとうございます」
『オレが、行きたいから行くんだけどね』
また言葉に詰まってしまう。
そんなふうに、迷いなく言ってくれるなんて。なんか、ほんとに、嬉しい。
『高校は分かんないから、宮瀬と一緒にいくからさ。持ってくものもあるでしょ?」
「あ、はい」
「宮瀬んち寄るから、時間とか決めて教えてね』
「分かりました」
少し話して、電話を切った。先輩の笑い声が耳に残る。
スマホをテーブルにおくと、なんだか体の力が抜けて、オレは床に転がった。
「……ってこんなことしてる場合じゃないな」
体を起こして、準備するリストをテーブルに置いた。
先輩も、約束を断ってまで来てくれるんだから。
来週の土曜までに、ちゃんと準備を整えなきゃならない。
用意するもののリストをまた見直す。
なんか漏れてそうで、リストとにらめっこする時間が長くなる。
結愛や手芸部の子たちとの連絡の通知も絶えない 。
大学で散らばった同学年より、今手芸部の後輩の方がいいと思っていたのだけれど、どこから伝わったのか、同学年の子たちも手伝うと言ってきてくれる。人数が増えてきて、ちょっと焦る。皆、面白がっているのだろうけれど。やっぱり焦るな……ドキドキしてくる。
準備の合間に、先輩と結愛が家に来て、土曜の段取りを確認した。
先輩と結愛にも試してもらって、ほんとに初心者とか子供でもできるか、確認してみた。
イベント当日の綺麗なマニュアルは先輩が作ってくれると言っていたけれど、土曜用に簡単なのも準備した。
とにかく色んな準備を並行して行わなければいけなかった。
忙しかったけど、やっぱり楽しい。
準備は大変だけど、出来上がるのは、可愛いぬいたちなので、楽しみが大きい。
子供たちも喜んでくれるといいなぁ、と想像すると、顔が綻ぶ。
気付けば日々またあっという間に過ぎていく。
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