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第6話 緊張
◆◇◆
土曜の朝。
前の日から何度も持ち物を確認した。型紙、布、試作ぬい、説明プリント、ボンド……。
何度目かのチェックをしていると、チャイムが鳴った。なんか緊張してきた。
「宮瀬~」
先輩の声。
慌てて玄関を開けると、先輩が立っていた。白Tに、鮮やかなブルーの開襟シャツ。
おお……と、目が釘付けになる。
この人、ほんとに、青が似合う。てか他も似合うけど。今日はやたらカッコイイ。
というか。……これは、手芸部の皆、先輩にくぎ付けなのでは。
うう。なんか一瞬変なことで憂鬱になってしまった。
「おはよ、宮瀬」
「おはようございます。今日よろしくお願いします」
「うん、任せて」
先輩が荷物を半分持ってきくれて、二人で並んで駅まで歩く。
朝の空気は、まだ少しひんやりしている。
「まだ涼しいけど……暑くなりそうだね」
太陽を見ながら、先輩が言う。
――駅が近くなって人が増えると、道行く人が、先輩を見てるような気がする。
てか、絶対見見られてるよな。
「? 何?」
ついつい、見てしまってたオレは、首を傾げられて、いえ、と目線を逸らす。
カッコよすぎるなぁ。この人。
「なんか緊張するね」
「え?」
「宮瀬の仲間に、紹介されちゃうし。ほんと緊張する~」
「先輩、緊張するんですか?」
「オレのことなんだと思ってるの?? めっちゃ、するよ。だから、ちょっとオシャレしてきました!」
「え」
「えって。オシャレじゃない? これ」
先輩が眉を顰めながら自分の服を見ている。
「あ。いや、すっごいオシャレだと思います」
「ほんとかなぁ……」
しまった。違う感じで取られてしまった。
オレが、えっていったのは……オレの仲間に会うのに緊張したり、オシャレしてきましたって言ってくれる先輩が。
……なんかあまりに可愛くて、えってびっくりしただけだったんだけど……。
高校の最寄り駅を降りて、先輩と二人で歩く、高校への道。
三月までは通っていたのに、ものすごく懐かしい。
チャイムを鳴らすと、職員室の先生か、「はい?」と声が響く。
「あの、手芸部と……」
何て言ったらいいんだと思った瞬間。緊張が突然ピーク。
「宮瀬か?」
「はい」
「入ってこいよ」
かち、と鍵が開く音がした。先輩が、「知ってる先生?」 と、ふ、と笑う。
「手芸部の顧問の先生だったと思います」
「そっか」
先輩が笑って頷く。
その笑顔に、緊張していた胸の奥がふっと軽くなった。
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