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第7話 懐かしい場所

 正門からまっすぐ伸びる通路を歩いて来客の昇降口へ向かう。  靴を入れてスリッパを借り、職員室に向かおうとしたところで、向こうから男の先生が現れた。  少し丸っこい体つきの、国語の山本先生。近づいてきた先生は、不思議そうだった。 「あれ……?」  首をかしげ、オレと先輩を交互に見比べてきた。 「宮瀬は……?」  不思議そうに呼ばれて、苦笑しながら口を開く。 「先生、お久しぶりです」  苦笑しながら、そう言ったら、先生は、「えっ?」と眉を寄せて、オレをまじまじと見つめてくる。  顔の中に、高校までの面影を見つめたのか、先生は「宮瀬、なんか随分変わったな?」と笑った。 「ちょっと結愛に。格好だけですけど」 「ああ、妹にね。今日は宮瀬妹も手伝いに来てくれてるしね」  先生は合点がいったように頷いて、次に先輩へと視線を移した。 「カメラの撮影をお願いしてて。大学の先輩の白川さんです」 「あぁ、そうか。よろしくね」 「よろしくお願いします」  先輩が会釈している。オレの高校時代の先生と、先輩が、と思うとなんだか不思議。  三人で歩きだす。この三人で歩いてるのも、これまたすごく不思議。 「あ、先生、教室ありがとうございました」 「いやいや、いいよ。宮瀬のぬいぐるみは人気だからな。文化祭でも売れるし、部員たちにたくさん教えといてあげて」 「ぁ、はい」  話しながら、校舎を進む。  ひさしぶりに足を踏み入れた高校の校舎は、思い出よりも天井が低く感じられた。大学の天井が、すごく高くて広いからかもしれないけど。  ……懐かしいなぁ。  思えばここにいたオレは、見た目だけは、今と違った。先生にまでツッコまれるとは思わなかったけれど。 「元部長、きたぞー?」  先生が言いながら、家庭科室のドアを開けると、すでに集まっていた中の人達の姿が、先生越しに見えた。  おはようございまーすと、皆の声がする。  知っている顔も、知らない顔もある。一年の子も参加してくれることになったらしくて、その子たちは初めましてだ。  先生のあとについて中に入ると、一気にざわついた。  全員の視線が集まってきて、今度は、息も苦しくなるような静寂が生まれた。 「え……部長は……??」 「まさかあの人が……?」  視線を寄せてザワザワしている。  と、その時。 「あ、お兄! 先輩も!」  ドアを開けて結愛が駆け込んできた。「ごめんね、トイレ行ってて……」と言いながら、部屋中の異様な空気に気づいて、すぐに「ふふ」と小さく笑った。事情を察したみたい。 「元部長で、私の兄と。こちらが兄の大学の先輩です」  結愛がオレ達を紹介するが、教室内のざわめきは簡単には収まらない。 「えっ、ほんとに?」 「嘘でしょ……」 「いや、顔は……似てる、かも……??」 「結愛結愛っ」  結愛が手招きされて、連れていかれる。 「そう。イメチェン計画実行してね」 「えええー、あの人、ほんとに部長なの?」  結愛が説明するのに、一生懸命だけれど。  説明はどうやら、まだ信じられていないみたいだった。

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