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第22話 チョコミントアイス
コーヒーとアイスを持って、先輩がオレの目の前に座った。
幅がないので、さっきのテーブルよりも、大分近い。ちょっと心臓が跳ねた。自然と少し、斜めに座り直した。
「宮瀬、チョコミントとバニラどっちがいい? オレはどっちでもいから」
「えーと……」
「あ、当てるから待って」
当てる? 不思議に思ってると先輩がオレをじーっと見つめてくる。斜めに座ったとは言え、乗り出されると、近い。先輩、近すぎです。と思った瞬間。
決まった~と笑って、引いていく。アイスを持った手を後ろに回して、そのまま動きを止めた。
「宮瀬っぽいのを右手に持った。好きなほう、言ってみて?」
「――チョコミントがいいです」
ふ、と笑ってしまいながら答えると、先輩は途端に眉を寄せた。
「ええー」
言いながら、左手から、チョコミントを取り出す。
「なんか宮瀬は、アイスはバニラしか食べないですって、言いそうなイメージがあったのに」
「どんなイメージですか」
「うーん。何となくだけど、冒険しないって感じ? チョコミントなんて食べなそうなイメージを勝手に持ってた」
「はは。まあ、分かりますね」
受け取ったチョコミントの蓋をあけて、一口。
「確かに高校の時まで、そうでしたね」
「えっ」
「あれですよ。結愛の特訓の時に、家でアイス食べてたら、言われたんです」
「何を?」
「お兄、いっつもチョコかバニラ。ダメだよ、もっと、色んな冒険しないと!って」
目を丸くした先輩が、クスクス笑い出す。
「なんかそういうところから、普段の考え方とか、凝り固まっていくんだから! みたいな……まあその時オレは、アイスまで……って思ったんですけど、これがひと口食べてみたら、美味しくて、すっかりはまって」
「あーそうなんだ。おいしいよね」
笑いながら、先輩は、バニラを一口。
「――でもその後、チョコミントばっかりいろんな種類買って帰ったら、またそれはそれで、お兄そういうとこー!って言われて。どういうとこだよーってなったら……」
「ああ。またそれだけになってるってこと?」
「はい」
「結愛ちゃんも宮瀬も面白すぎる……仲良しだよね」
「――まあ。結愛が変わってるんだと思います」
そう言うと、先輩は、ん? と首を傾げる。
「あんな感じの陽キャの妹、普通だったら、お兄キモイ、とか。お兄ウザイ、とか。言いそうじゃないですか? 思春期だし、もっとカッコイイお兄ちゃんが良かったーとか、言われても全然不思議じゃないと思うんですけど。結愛が変わってるから、仲良くして居られるのかも」
「……それ、結愛ちゃんに言ったことある?」
「いや。ないですけど。変わってるとか言ったら、怒られそう」
クスクス笑ってしまったオレに、先輩は面白そうに首を振った。
「違うんじゃないかなあ……宮瀬が良いお兄ちゃんやってたから、結愛ちゃんがそうなってるんだと思うんだよね……」
「――そうですか? ……あ、そういえば」
「うん?」
「結愛の自己肯定感が高いのは、お兄が可愛がってくれたから、とかは言ってましたね」
アイスを口に入れつつ、それを言ったらまた笑ってしまった。
「自分で自己肯定感が高いって、言ってますからね。ほんと、ポジティブな妹です」
――それでも、たまには、陽キャじゃない時もあるとか。色々言ってたな。
「いいなぁ、ほんと仲良くて」
「先輩は、兄弟いるんですか?」
「兄が一人。結構年、離れてる。仲悪くも良くもないかなぁ……最近は全然会わないし」
「そうなんですね」
まあ年の離れた二十歳越えの男兄弟、別で住んでたら会わないのもよくあることかな。
と思いつつ、何となく少しだけ「いいなぁ」という言い方が、気になった。
その声が、ほんの少しだけ寂しそうに聞こえた気がして……でも、先輩から話すつもりはなさそうだったので、触れなかったけど。
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