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第23話 オレの為
アイスを食べながら、ふっと思い出したことを聞いてみることにした。
「先輩、ちょっと前のことなんですけど」
「うん。なに?」
「合宿の朝のバスの時……」
「宮瀬があっという間に寝てたやつね」
クスクス笑ってる先輩。
「里山と登山中に聞かれたんですけど……オレと、バスに一緒に乗る約束してるからって言って、誘いを断ってたって、本当ですか?」
「ああ。それ……うん。ほんと。そうだ、言っとくの忘れた。ごめんね」
「あ、いえ。大丈夫です。それって、あれですか、石井の誘いを断る口実の……?」
「――えーと。いやちょっと違うかなぁ……」
「違うんですか?」
あれ、思ってたのとは違うのかな。と、先輩を見ていると、先輩はクスッと笑った。
「えっとね……もともと宮瀬の隣が空いてたら座ろうと思ってたんだよ」
「え」
「ほら、二時間以上あったじゃん、バスの旅。長いからさ、行くまでに宮瀬が疲れるかもって思って」
「――」
「集合場所まで歩きながら、宮瀬、参加だけど、決死の参加なのかなって思ってさ。だから行きのバスくらい、オレが隣に座ろうかなって。まあ誰かが座ってたらもちろん、行かなかったんだけどさ」
先輩は、ふふ、と笑って、オレを見てる。
なんか――予想もしてなかった話だった。オレの為に、来てくれようとしてたのか。
「一緒に座りましょうって、石井に声かけられてさ。そん時、ついつい宮瀬とって言っちゃったんだよね。まあ、そのつもりで考えてたから、嘘ではないんだけど。約束はしてなかったから、宮瀬に言っとこうと思ったんだけど……まさかの宮瀬、爆睡でさあ。で、オレも寝ちゃったら、その話はすっかり忘れてて」
ごめん、なんていいながら、口元を軽く押さえている。
「里山に聞かれて、なんて言ったの?」
「……ああ、なんか、オレは、その誘いを断りたかったんだと理解したので、曖昧に、ああ、みたいな返事だけしておきました」
「あーありがと!」
「いえ……」
「ていうか、まあ確かに、女子と……しかもなんかこう結構好意をむき出しな女子と、二人で座ったりすると、またいろいろうるさいからさ。からかわれるのも嫌だし。合宿一日目の朝からはちょっとなぁと思ったのは確かだけど。宮瀬のことが無くても、何かしら言って断ったと思うよ」
「そうなんですね……」
ていうか。先輩。
あんとき、オレの為に、オレの隣に居てくれたのか。
あーだめだ。これ。
すげー嬉しいかも。
「でも、帰りのバスとか見てても全然平気そうだったから、オレの余計な心配だったかもだけど」
笑いながら言う先輩に、首を横に振る。
「隣が田中っだったのと、帰りのバスだったので少しあの雰囲気に慣れてきたのとで、マシでしたけど……行きのバスで寝てたのは、行きから疲れないように温存しておこうと思ったからなので、先輩の心配、あってたと思います……」
「あ、そうなの?」
ぷぷ、と先輩が苦笑してる。
「じゃあ、よかった? オレ、隣で」
「……はい。起きた時、すごい、嬉しかったです」
先輩の頭が寄りかかってて、ドキドキして死にそうになったのを思い出す。
「はは。なら良かった」
先輩は最後の一口を食べ終えて、にっこり笑う。
はー。――好きすぎるなぁ、オレ。
ちょっとため息をついてしまいたいくらい。
まともに先輩を見られなくて食べ終えたスプーンを、カップに戻した。
視線を下に向けていると、テーブルの横に置いておいたイベントの封筒が目に入った。
「あ、そういえば。先輩、これ……」
アイスのカップを端に片付けながら、封筒から中を取り出した。
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