76 / 79
第25話 オレみたいな陰キャは。
「あ。そうだ。今日の皆の写真見たい? 見たいよね?」
突然先輩がそう言って立ち上がると、パソコンを引っ張ってきて、ローテーブルの上で開いた。それから、部屋の隅からプリンターも持ってきてテーブルの横に置くと、コンセントを繋げて、両方とも電源を入れた。
「このプリンターさ、すっごく綺麗に写真印刷できるんだよ」
「そうなんですか」
「うん。ちょっと待ってね」
「はい」
パソコンを開けて、パスワードを入れてる先輩の横で、オレは、パンフレットに視線を落とした。
高校の写真部。……カメラをやめた理由、なんて言ってたっけ。
コンテストとか……? そのほかにも何かあったのかな。
今はもう、先輩は、明るく普通の顔をしている。
「これ、今日の、集合写真ね」
パソコンの画面にいっぱいに写った写真。
「わ。いいですね」
やっぱり全然違うかも。集合写真なんてよく撮られるものだけど。並んで笑顔にさせるまでの、先輩の声かけとか、雰囲気が良かったのかな。とにかく皆がすごく笑顔だった。タイマーをセットしてからオレの隣に滑り込んだ、先輩の笑顔。オレも、ちゃんと、笑顔だ。
皆の楽しそうな笑顔を、そのまま切り取ったみたいな写真。
「プリントしてみる?」
「はい、ぜひ」
そう言うと、先輩が印刷ボタンを押す。プリンターが低く唸って、カタカタとローラーが回る音。ウィーンと印刷している音がする。
その間に、先輩が今日ずっと撮ってくれていた写真を、一緒に追っていく。
「わー、皆楽しそうですね」
「うん。……ここらへんとかさ。顔が映らないようにとったから、使えるかもね」
「ですね。にしても、顔が映ってないのに、笑顔でやってるんだろうなーっていう、雰囲気の写真。すごいですね」
「――そう? ありがと」
何枚か、先輩が写真を印刷していく、
先に一枚大き目の集合写真の印刷が終わった。はい、と差し出してくれたのを受け取る。
画面で見るのとも、かなり違った。余計生き生きして見える。
「先輩の写真って、皆が楽しそうで、いいですよね」
「……そう?」
「はい。なんか、見てるだけで、その時の雰囲気がちゃんと伝わってくるっていうか」
「皆、楽しそうだったんもね」
「それがちゃんと映ってます。キラキラして見える。すっごくいいです」
「ほめすぎ……」
先輩が苦笑しながら、後から出てきた、普通のLサイズの写真を数枚、テーブルに置いてくれる。
どれもこれもほんといいなあ。
渡される写真全部、顔が綻んでしまう。
「あれですね。きっと、先輩が楽しそうに撮ってるから、こういう写真なんでしょうね。見てる人まで、一緒に笑っちゃうような……ほんと、絶対笑顔になりますよ、この写真、見た人」
「……そう?」
「はい。オレ、やっぱり先輩の写真が好きですね。……写真のこと、全然分からないですけど。とにかく、すごく好きです」
「――ん。ありがと」
先輩はオレの方は見ず、パソコンの画面を見てる。
オレは、先輩が渡してくれた写真を見てる。
視線は、あえて、絡ませない。
なんだかそんな雰囲気だった。
――オレみたいな陰キャはね、先輩。
人の視線が気になったり、自分を出すのも嫌いだし。
相手が自分をどう思うかに敏感だからさ。
すごく――周りを見てるんだよ。空気に敏感な陰キャって、多いと思う。
反応が気になるがゆえに、自分を出せない、みたいなさ。
まあ少なくとも、オレは、そうだから。
周りの人の空気とか。分かる方だと思う。
まあ分かったからって、それに対して、良いと思うことをできるかって言われたら、出来ないのがオレだけど。
まあでも、結構見てるんだよ。周りを。
だから。
――先輩が今、どんな雰囲気か分かる。
そんな風に笑顔でも。
お酒がおいしいとか笑ってても何かを考えているのも分かる。
とは言ってもね……言いたくないことくらい誰にでもあるし。
先輩が言ってこないのに、オレが聞けるか……? 聞いていいのか?
話したくもないことかもしれない。少なくとも、完全に吹っ切ったって顔はしてなかった。
――でも聞かない方が良いのかな、とも思うから。
どうしたらいいか、迷う。
先輩が言いたくないことを、無理に引き出すのは、ただの迷惑かもしれない。
それも分かってる。
でも、このままやりすごしたら、ずっと心に引っかかる気がする。
どうしたらいいんだろうな。
ともだちにシェアしよう!

