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第29話 先輩の大事なところ
「写真はほんとに好きだった。勉強して、撮って……高校一年までは、賞みたいなのもちょこちょこ取っててさ。
……まあ調子に、乗ってたんだと思う。周りがすごいって言ってくれるし。全部うまくいってるような気がしてた」
まあ何となく、先輩のそういう姿は、普通に想像できる気がする。
「でも高三のときね、後輩が入ってきて……写真、上手でさ。なんかすごいモテる奴だったんだけど、すげー懐いてきて。『先輩の写真が好きです』とか言って……それがなんか嬉しくて、写真、教えてさ」
一度言葉を切って、レモンサワーを少しだけ飲んだ。
「登山みたいなのしてたって言ってたでしょ。部でも行ったけど、そいつとも、行ってて……でも、その後輩がコンテストで入賞した時、オレは落ちて。まあそういうこともあるのは分かってたんだけど……部活で、そいつが『陽彩さんって、全然大したことないですよね』って言ってんの、聞いちゃって……オレ、あれだけ教えたり一緒にいたのにさ」
先輩は苦笑したけど、そのまま続けた。
「そんな感じ……かな」
そんな感じ……? それ位のことで、先輩が、そんな風になるのかな……。
口調にも、少し苦笑交じりの、なんだか違和感を感じた。
「……もしかして、他にも何か……?」
先輩は、きょと、とした目でオレを見てから、視線をまた逸らした。肩を竦めて、苦笑しながら。
「……まあなんていうか……そいつが賞をとった写真がね。……オレが、ここから撮ったら綺麗に撮れるよって教えた写真でさ。それをコンテストに出したのは知らなかったんだけど……まあ多分それで賞を取っちゃって、気まずかった、とか……そういうのもあって、あのセリフだったのかもしれないとは、思う……オレを、認めたくなかったんだろうな、とかも……」
「――」
「しかも、知らないうちに、オレと仲良かったタメの子が、その後輩と付き合い出して……なんか急に二人と、疎遠になって……あんなに『先輩先輩』って言ってたのに、とか。んー……なんかもう、やる気なくなっちゃって……写真も、人と仲良くするのも……」
沈黙が落ちる。
エアコンの音だけが響いてる。
「結局……オレなんかいなくても、普通に回るんだなーとか……『好き』とか言ってても、すぐ変わるし……だからもう、あんまり一生懸命人と関わるのやめようって思って……まあそれでも、楽しく過ごしたいなとは思っちゃって、冴島さんとかに声かけられて誘われるまま、サークルとかは入ったけど……たまに、疲れるっていうか……虚しくなるというか……」
胸の奥が、ぎゅっと掴まれるみたいに、痛い。
やけに喉が渇く。
虚しくなる、って。この言葉が、こんなに重いなんて。
先輩の声は、まだ少し酔ってて、ふわふわ柔らかくて。たまに掠れる調子が、妙に辛そうに聞こえて。
今までの先輩の、ふとした言葉や表情が全部、急に、腑に落ちた。
オレが居なくても、とか。そういうところ。
ああ、こういう気持ちを抱えてたから、どんなに好かれてる風でも、
ああいう感じだったのか、って。
たぶんこれは、先輩の、すごく大事な部分だ。
高校生の先輩が、誰にも話さなかったくらい。……話せなかった、くらい。ずっと一人で抱えてきたこと。
なんて言おう。
不用意には、言えない。
その後輩には腹が立つけど、多分先輩は、懐いてきたそいつをほんとに可愛がってたんじゃないかな。山登り二人で行ったりとか。写真も教えたり。
だから、好きだった写真も撮らなくなって。
ほんとは好きだった人との関わりも、なんか最後のところで引いてる。
聞きだしたオレしか、知らない。
先輩の弱ってる、大事なとこ。オレだけが聞いてしまった。
その事実だけで、胸の熱さと痛さがごちゃまぜになって、言葉が見つからなかった。
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