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第30話 高校生の先輩に言いたいこと
「写真はね、好きだったし。部活は一応辞めずに最後まで居たけど……なんかすごく気まずかったし。引退した時は、やっとやめられるって、思っちゃった」
先輩は、ため息をついて苦笑した。
「……あの」
「――いいよ、何も、言わなくて。壁打ちだし」
「――」
あきらめたように言う先輩。
「困るでしょ。今まで誰にも言わなかったのもさ……相手が何ていうか、予想がつくからで」
「――」
「後輩が悪い、そんな奴のためにそんなに気にする必要はない、女の子も、賞をとった奴にくっついてっただけだろう、とか。多分、慰めるなら……オレもきっとそういうこと言うだろうし。もう少し踏み込む人なら、オレはそんなことしないから、とか。そういうことかなって予想がつくから……」
確かに、それは少し浮かんでいた言葉ではあるけど。
そう思いながら先輩の、諦めたような言葉を聞く。
「ていうか、オレ、もともと分かってるんだよ。人に教えてもらった構図でコンテストに出す時点でおかしいし。教えてくれた人にあんなこと言うのも。……でもね、多分、後輩もまさかほんとに全国で賞をとっちゃうなんて思わず出したんだろうな、とも思ったりするし。だからあいつが本当に悪いかっていうと……そんなこともない気もしたり……オレが気にしすぎなのも、分かってるし」
そこまで言って、先輩は、はぁ、とため息をつきながら、膝に突っ伏した。
「ごめん。分かってたから誰にも言わずに来たのに……宮瀬に話しちゃって、ごめんね。……ちょっと、酔ってたかもって……酔いのせいにしちゃだめだよな。ほんとごめん」
「そんな短い言葉の中に、三回もごめんなんて、言わないでくださいよ」
オレがつい突っ込んだ言葉に、先輩は、きょとん、として。
ほんとだ、と笑った。
「でも……ほんとごめんね」
「もう謝らないでください。つか、オレは、聞けて良かった」
「――」
「先輩がたまに、オレが居なくてもって言ってたのが、ずっと気になってたから。意味が分かって、良かった」
「……良かった、の?」
「良かったですよ。だって、これから、それを言ったら、止められるから」
なんだか先輩は不思議そうな顔で、オレを見て、少しだけ首を傾げた。
「……思うこと、言って良いですか?」
「――どうぞ」
「先輩の地雷とか、踏んだらすみません」
「……いいよ。どうぞ。宮瀬が話すこと、聞く」
そう言われて、オレは、先輩を見つめた。
「……聞いてて、悔しかったです」
「――?」
なんだかすごく不思議だったのか、先輩が首を傾げてる。
「先輩がそんな嫌な思い、してるのも。……してる時に、オレが、そこに居られなかったのも。悔しいです」
「――高校……違うから、ね……」
「だから。先輩の高校に行って写真部に入ってなかったことが、今悔しいです」
「……居たら、どうしてた?」
「知ってたら、その写真は、先輩に習って撮ったんだろって、言ってます」
「――陰キャくんだったんじゃないの?」
「大事なことは、そうはいってられません。火事場のバカ力みたいな……? とにかく、もしその場に居たら、絶対先輩の味方しました」
先輩はクスクス笑って、頷いてる。
「それで?」
「ほんと悔しい。そこに居られなくてすみませんでした」
「…………なんで、宮瀬が謝るんだよ。変……」
視線を逸らされてしまったけれど、続ける。
「悔しいけど……でもそれでも……今こうして、聞けて良かったです」
言いたいことを、頭の中で、整理する。言いたいことは、決まってる。
「高校生の先輩は、偉かったです。そんな嫌な思いしたのに、そいつの写真が、自分が教えたのだって、騒ぐこともしないで。分かろうとしてあげてる。先輩は、そんな時ですら、優しいんだなって、すごいなと思いました」
先輩は、黙ったまま、オレを見てる。
あんまりまっすぐ見つめるのはちょっと照れくさいけど。今は、頑張るしかない。
「その女の子はよくわかんないですけど、知らないので。でも、そういう賞とかとったりキラキラしてる奴を好きなだけで、先輩から乗り換えたなら、先輩が気にする必要は一切ないです。多分そういう子って、居るので。それ以外で、普通に先輩よりそいつを好きになったっていうなら、まあ恋愛なんてよく分からないですけど、移り気な人はいるだろうから、これもまた、先輩が気にすることは無いです。でもオレが思うに……」
そこまで言って、オレは、ちょっとだけ、言葉を選ぶ。
「……オレが知ってる限り、先輩よりカッコいい人なんていないので……その子はきっと、賞をとった彼氏がほしかったんじゃないかなって思います」
最初は少し照れながら言ったオレに、先輩は、ふは、と笑って、呆れたような声色で。
「見てないじゃん宮瀬……。後輩も、女子も」
「見てなくても、分かります。で……」
先輩なんだか、クスクス笑っている。
「そう。そんな嫌な思いがありながらも、写真部、最後まで居ただけで、偉いです。高校生の先輩。ほんとに偉かったと、思います。頑張りましたね」
「――」
ふ、と笑った先輩は、口元に手を当てて、少しオレから視線を逸らした。
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