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第35話 特別な。
バスルームからリビングに戻ると、先輩がソファから立ち上がた。
「あ、おかえり。ドライヤー、これね。オレも入ってきちゃう」
そう言いながら、先輩は冷蔵庫を開けると、ペットボトルの水を渡してくれた。ありがとうございます、と受け取る。先輩がバスルームに居なくなってから、テーブルの上のドライヤーを手に取って、コンセントに差した。
乾かしていると、先輩のシャンプーの香りがする。
――先輩と同じ。と思うだけで、胸が少しドキドキする。……中学生とかの初恋みたいだな。と思いながら、初恋だからしょうがないか、と苦笑が浮かぶ。
せめてもう少し、誰かに恋とかしてきてたら。もうちょっと自分の気持ちも分かったかもしれないのにな。
好きってことだけは分かるけど。
最初は、「先輩くん」を愛でてただけで大満足だったから、あれは恋とは違ったんだろうなと今は思う。あの時は、カッコよくて笑顔が可愛くて優しい、コミュ強の人気者の先輩。という、超強いキャラに憧れてて。それで先輩くんがお守りだったんだ。
優しい先輩をかたどったぬいに、癒されてた。
超強いキャラ、としては今は見てない。
カッコいいし可愛いし優しいし。
ただ、普通にいろいろ悩んでて。コミュ強とかじゃないのかも。すごい人気なのは変わらないけど。
最初の頃は、ほんとに憧れで、遠くにいる人で。
……今は、なんだか――隣に居てくれてる、気がする。 ……とか言ったら図々しいかな……。
――先輩、高校の時は、女の子と仲良かったんだな。後輩と付き合わなかったら、先輩がその子と付き合ってたのかな。
大学で、先輩があんまり、特定の女子と絡まないから、もしかして先輩も女の子が対象じゃない……? とか無意識にあったのかもしれない。やっぱり先輩は普通の人だよなと、再認識しただけだけど。
先輩の距離が近いのも、全然意識してないからなんだろうな。後輩とも、二人で登山とか、仲良くしてたっぽいし。ていうか、先輩なら誰とでも、すごく仲良くなれちゃうか……。
今、ぬいの件で用があるから先輩と居られてるけど、これが無かったら、そうそう居られなくなるのかもしれない。
イベント……まだずっと先だったらいいのに。準備期間は居られるだろうし。でもすぐなんだよな。
あーそっか。販売するとこが目立つように何か考えなきゃって結愛が言ってたな。
うーん……もういっそ、手芸部、とか書いちゃう? あ、でも、勝手に高校名書いちゃだめだよな……。
ドライヤーのスイッチを切って、テーブルに置く。
なんだかな。
考えがあっちこっちいって、落ち着かない。
そのままラグの上に座って、水を飲みながら、先輩の部屋を何となく見回す。
ほんと。余計なものが無いなぁ……。
物に執着が、ないとか……? 人にも? そんな感じで、生きてきたのかなぁ……。
そんな部屋の真ん中に、自分がこうして座ってるのが、不思議な気がした。
オレにしか話せないって。どういう意味だろ。
その一言が、頭の中で何度も響いてる。
もしかして……オレなら他の奴には話さないと思ってるとか。
話さないというか、話せないというか。自分で考えてて、苦笑が漏れる。
それとも。
……少しは特別な存在に、なれてるんだろうか。
なれてたら嬉しいな。
もし今はそこまでになれてなくても……これから、なっていけたら、嬉しい。
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