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制裁(せいさい)
※合意無しの無理やりの性行為描写を含みますので苦手な方はご注意下さい。
水族館デートから数日が過ぎた。あれ以来、匠は遙と意図的に距離を置いていた。面倒だから、という訳ではない。ただ、ほんの少し遙の存在が重たく感じていたから。気まずさとも、照れとも、よく分からない感情が入り混じっていて、ついスマホの通知を無視する日が続いていた。とはいえ今日は久々に会う約束をしていたはず。それも、遙の方から一方的に取り付けられたのだ。匠自身、どう返事をしたかすら曖昧だったが、約束の時間までまだ時間があると思い匠はPCの電源を入れ、コントローラーを握る。
匠のアパート前。空調の効いた車内で遙は時間を持て余していた。時計の針はもう待ち合わせ時間を過ぎている。
(……匠。遅れる連絡も無いとは、いい度胸だな)
遙は口元を緩く歪め、手にしたスマホを見つめるが通知はゼロ。着信も無し。
(……何をしている。何かあったのか……?)
キーケースにしまってある匠の部屋の鍵の存在が重く指先を刺激する。勝手に作った合鍵。初めて匠を犯したあの夜、遙は眠る匠の傍らで密かに鍵の型を取り、後日何食わぬ顔で作成していた。無論、匠はその事を知らない。
「……全く。手間が掛かるな」
エンジンを切り、ゆっくりと車から出る。真夏の日差しに肌がジリジリと焼ける感覚。落ち着いた所作で長い銀髪をかきあげると、青灰色の瞳が細くなる。
(もういい。此方から迎えに行くまでだ)
一切の迷いも無く歩き出す足は静かだが、その奥底には誰にも触れさせたくない執着と怒気が渦巻いていた。匠の部屋の前に着くと、遙は迷わずポケットから鍵を取り出す。扉を開けると中からは匠の微かな笑い声が漏れ出していた。更に奥へ入って部屋を覗いてみると、匠はヘッドセットを付けて画面の向こうのプレイヤーと楽しげに会話をしている。
(……楽しそうだな。俺との約束より、ゲームの方が大事か)
一歩、また一歩と進み、PCのモニターに張り付いて椅子に座る匠を見下ろす。無防備に背を丸め、ゲームに集中している姿。こちらには全く気づいていない様子。
「……余程、夢中らしいな」
静かなる怒りが込み上げてくる遙。可愛いと思う反面、自分よりゲームを優先し、あまつさえ自分以外の人間と上機嫌に話す匠を見て平常心ではいられなかった。
「俺そろそろ出掛けなくちゃいけねぇんだよね、だからコレ終わったら抜けるわー」
そう話す匠のすぐ後ろには、冷笑を浮かべ静かに佇む遙。
「ふふ……」
「ん……なに……えっ、うわぁ!!」
匠はやっと気配を感じ取ったのか振り返る。遙の姿を見た瞬間、琥珀色の瞳は揺れ、顔がみるみる真っ青になっていく。
「な、何でいんの!?俺、鍵閉めてたはずだけど!?」
匠の言葉など耳に入らないとでも言うように、遙はゆっくりと匠の腰に腕を回し、ヘッドセットを外すと耳元で低く囁いた。
「随分とお楽しみだったようだな。……俺との約束を破ってまでやるゲームは……さぞ楽しかっただろう」
「ち、違う……これ終わったらマジでやめるつもりだったんだよ……」
小声で呟きながらも慌てふためき、思わずコントローラーを落とす。そのままPCの電源を切ろうとする匠の手を掴み優しく微笑む遙。しかし青灰色の瞳は全く笑っていない。
「……切らなくていい」
「はぁ?や、切るよ……」
「……ダメだ」
表情は笑っているが声は低く、冷たい。外したヘッドセットを再び装着させると、遙の手は匠の腹を撫で上げ、そのまま服の中へ侵入。匠は喉が詰まるような声を漏らす。
「っ……あっ……!」
「おい、匠、どうした?モンスター移動したぞ?お前ずっと棒立ちじゃん」
(やべぇ、終わった。遙との約束の時間、間違えてた……絶対怒ってる)
遙は耳に舌を這わせ、そのまま甘く噛み、指を腹のくびれに沿って滑らせる。
「折角だ……お友達に聞かせてやろう」
「や……やめろ……」
「おい、どうした?腹でも痛いのか?」
「……あ、あぁ……ちょっと……っ」
必死に平静を装う匠。遙はそんな匠に苛立ち更に追い込もうと、キーボードを退かし机の上に匠の上半身を固定させた。
「……是非、可愛い声を沢山聞かせてやれ」
「ちょ……ちょっと待ってくれよ……」
「何か凄い音したけど本当に大丈夫か?」
ヘッドセットの向こうは困惑の声を上げるが匠にはもう返事をする余裕が無い。恐怖と焦燥に塗れ全身を震わせる。もう会話どころではなく、友人の声すら遠く霞んでいった。遙は匠の怯えた表情を愉悦に眺めると、舌舐めずりをした。
卓上に組み敷かれ、乱れた髪と潤んだ瞳の匠を遙は細めた青灰色の目で見下ろしていた。友人の声しか聞こえてこないヘッドセットは未だ外されず、そのまま耳に。ゲーム音はせず、遙の声もそれなりに聞き取れる。モニターには既に自分のキャラクターが死亡している様子が映し出されており、匠は思わず身震いをした。
「ごめん、俺が悪かった……だから、せめて通話は切らせて……」
「……ダメだ。最後まで聞かせてやれ」
「い、いやだ……っ」
遙の手が大腿を撫で、指先は肌の感触を楽しむように往復する。一滴の汗が匠の背を伝う。
「ほら……会話を続けてやらないと、お友達が心配するぞ」
「っ……う……」
遙の細く長い指が太ももの付け根を強く押し、逃げ場を失った匠の震える脚を無理やり開く。ヘッドセットの向こうでは、まだ友達が自分を呼ぶ声が響く。
「匠?何か話し声が聞こえるけど、誰か来てるのか?」
「っ……あ、うん……」
遙は匠の顎を掴み、耳朶を舐め上げる。
「ネットだけではなく……俺とも繋がれ」
「や、やだ……!」
腰を引き寄せ、全く触れられていない乾いた箇所へ遙の熱が強引に捩じ込まれた。
「いっ……いたっ……!」
匠はあまりの痛みに顔をしかめ、肩を震わす。
「……これは俺を放置した罰だ」
「うっ……あ……いたい……っ」
遙の動きは遠慮無く速度を増していく。まだ十分潤ってはいないのに、激しく深く貫く。同時に指先は胸の突起を撫で、甘く引っかくように愛撫する。
「……ほら、もっと感じろ。そして聞かせてやれ。お前が誰のものなのか、教えてやる」
「や、やだ……っ……もうっ……」
「……強情だな。だが、所詮は無駄な足掻きだ……」
「あっ……あ、あぁあ……っ!」
匠の声は遂に抑えきれず、ヘッドセットに甘い悲鳴が漏れる。
「匠!?大丈夫か!?なぁ、何か声変じゃね?」
「っ……いや……ち、ちがっ……」
遙の唇が首筋に這い、そのまま赤い痕が残る。低い吐息が混じる囁き。
「……可愛いな。もっとだ」
「……あ……あぁっ……!!」
胸元を撫でる手、濡れ繋がった深部を抉る腰、大腿に食い込む指、全てが徐々に快感に変わって甘く、狂気的に、匠を壊していく。
(もう……やめてくれ……だんだん痛くなくなってきた……っ)
すっかり赤く染まった頬。呼吸は荒く、声は震え、全てがヘッドセットの向こうへ響く。匠の理性は完全に闇へ沈み込まれていった。
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