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命令(めいれい)
※糖度少ない性描写を含みます。苦手な方はご注意下さい。
「風呂に入る。その間……」
遙の氷のように冷たい声が匠の耳奥に突き刺さる。
「……全裸で待っていろ」
「えっ……な、何で……」
匠の声が裏返り、喉がひくつく。遙の青灰の瞳は一切の優しさの色が無い。
「不服か?」
「うぅ……っ」
抵抗を含んだ声は空気に溶けて消える。仕方なく遙の目の前で服を脱ぐ匠。指先は震え、肩は小さく痙攣している。一枚、また一枚。床に服が落ちるたび、冷たい空気と視線が肌を刺す。
(何で、こんな……くそ……くそぉ……!!)
すっかり剥き出しになった身体。無意識に両手で必死に前を隠そうとするが、遙の視線がそれを許さない、とでも言うように鋭く光っている。
「ふふ……直ぐに戻る」
最後に遙が低く呟き、一糸纏わぬ匠をそのままに、浴室へと消える。シャワーの音が遠くで響く。その音が、余計に孤独と羞恥を増幅させた。
(意味が分かんねぇ……何の罰ゲームなんだ……?)
全身に鳥肌が立ち耳まで赤くなる。視線は泳ぎ、膝が揺れる。
(嫌だ、助けてくれ……こんなの、絶対おかしいだろ……)
暗く、冷房で冷えた部屋に全裸の匠がポツンと取り残される。足先が冷え、心臓の鼓動だけがやけに大きく響く。少し経った後、入浴を終え、しっとりと濡れた銀髪をタオルで拭きながら近づく遙。裸で震える匠を爛々とした瞳で見下ろす。
「良く待ってたな、偉いぞ……」
(命令したのはお前だろ、クソが……)
匠は声も出せず、肩を震わせるだけ。とにかく必死に前を隠す。遙の濡れた指先が匠の頬を滑る。そのまま顎を持ち上げ、真正面から覗き込む。
「良い子なら隅々まで見られても何も困らない……そうだな?」
「はっ……?」
喉奥から悲鳴とも呻きともつかない声が漏れる。遙はゆっくりと顔を近づけた。熱い吐息が匠の耳をくすぐり、背筋を凍らせる。
「どうした……震えているぞ。寒いのか?」
「……やだ……何で……」
「今、暖めてやる……」
遙の指が首筋を滑り、鎖骨、肩、腕、隠している部位にまで伸びる。
「……隠すな。全部、俺に見せろ」
「や、やめ……」
遙は耳元で更に低く甘い声で囁く。
「証明しろと言っただろう……出来ないのか?」
「うっ……うぅ……っ」
匠の視界が滲む。全身が羞恥で赤く染まり膝が折れそうになる。
「泣いても無駄だ……せいぜい頑張ってくれ」
熱と甘い毒を孕んだ声が匠の耳の奥で残響する。遙は濡れた髪を後ろに払うと、冷ややかに笑みを浮かべた。
「……全部、見てやる」
ベッドに横たわらせ、匠の肌を視線が舐め回すように這う。鎖骨、胸元、腰、脚の隙間、全てを余すことなく、じっくりと。
「良い子だ……」
「ひぅ……あっ……」
遙の指先が匠の顎から首、肩を滑っていく。微かに爪を立てるように動くたび、匠の身体は震える。
「大学のお友達に触らせていないか、確認する」
「っ……いや……」
遙の長い指が胸の突起を軽く弾く。その瞬間、匠の声が喉の奥で小さく引き裂かれる。
「……ここは?」
「あっ……!」
指が腰骨をなぞり、内腿へと降りていく。
「ふふ……なら、ここはどうだ?」
匠は必死に脚を閉じようとするが、遙に一瞬で抑え込まれる。
「どうした、まさか俺以外に触らせたのか」
「ち、違う!……でも、やだ……お願い……!!」
遙の指先が微細に震える匠の肌を丹念に弄ぶ。冷たさと熱が混じり合い理性を焦がす。
「これでは証明にならないだろう。違うと言うなら早く脚を開け……」
「う……いやだ……あぁっ……!」
甘い囁きと強引な手。震える脚をこじ開けると指が体内へ、そして執拗に匠の敏感な箇所を責め立てる。その刺激に匠の意識は羞恥と快楽の地獄に溺れていく。遙は指先を止めることなく、更に深く匠の奥を擦る。内側を沿わせ、そっと。けれど確実に反応する位置を撫でる。粘着性の音も混ざり、遙の指が動くたびにキュッと締まる。
「ふふ……随分と気持ち良さそうだな。しっかり解れてきている。ここは俺だけが触って良い部分だ」
「いやぁ……あっ、やぁっ!!」
呼吸は既に掠れ、細かい泣き声が漏れ出す。閉じたくても脚の間に入る遙の身体で完全に抑えられ、震える事しか出来ない。
「こんなに感じて……可愛いな、本当に」
耳元で低く囁く声が背筋を這い、熱い舌が耳介を濡らす。
「……もう指だけでは足りないだろう?」
「っ……あ……ああっ!!」
遙は匠の耳朶を甘噛みすると、匠の膝がガクッと崩れる。
「もっと声を聞かせろ……俺だけに」
「んっ……あっ……やだ……っ」
指が奥で微かに内蔵を引っかくような感触。快楽で脳が支配され、理性は完全に溶かされていく。
「やはり、お前はベッドの上で感じている姿が一番可愛い……好きだ」
「うあっ……あぁっ!」
遙の指が中で動くと、それに反応して匠の全身がビクビクと痙攣する。更に空いた左手で胸元、腰骨、脚の内側、全てを容赦無く弄り、責める。
「……ほら、全部見せろ……もっと鳴け。お前の全ては俺のものだ……」
「ああ……っ……いや……もう……!」
遙は嬉しそうに、しかし冷笑を浮かべながら、ひたすら匠を貪る。突然、匠の身体が大きく震える。脚に力がこもり、呼吸は途切れ、声は掠れていた。
「あっ……あああっ!!」
全身に甘い痺れが駆け巡り、頭が真っ白に染まる。しかし、それを許さない遙の、凍てつくような声が匠の鼓膜に深く刺さった。
「誰が勝手に射精して良いと言ったんだ?」
「っ……!!」
目線を合わせる余裕も無い。匠の目は恐怖と羞恥に濡れ、琥珀が揺れる。
「許可していない……やはり、お友達に触られて敏感になっているのか?」
「や、やだ……違う……っ」
遙の指が引き抜かれると匠の腰を強く掴み、そのまま引き寄せる。
「悪い子だな。そんな子には……」
低音の囁きが耳を這い、痺れた脳に直撃する。
「罰が必要だな……?」
「いやだ……!!」
身体を支える力が抜け、匠は崩れる。しかし遙は容赦無く執拗に追い詰める。
「終わらない。お前が、良い子になるまでは……」
「ひっ……!」
全身が恐怖と快楽に染まり匠の声は、もう悲鳴に近い。遙は優しく微笑み、青灰の瞳を細める。
「……また今夜も眠れないな」
「いや……やだ……!」
匠の喉奥からは途切れ途切れの嗚咽が漏れる。全身が痙攣し、ずっと脚だけに力が入る。遙の視線は再び冷たく狂気を孕んで光り、匠の腰を強引に引き寄せると一気に貫通する。
「……ほら、これが欲しかったんだろう」
「あああああっ!!!」
匠の背筋が弓のように反り返る。声は悲鳴に変わり、顔は涙と涎でぐしゃぐしゃに歪む。
「良い声だな、堪らない……」
「も、もう……むり……っ」
遙は妖艶な微笑みで舌舐めずりをすると更に深く、激しく、繰り返し突き刺す。貫くたびに匠の脚がビクビクと震え、爪先が丸まる。
「……さあ、しっかり証明してみせろ」
「やっ……ああっ!!」
指は匠の脇腹を抉るように食い込み、耳元では低音の囁きが絡む。
「そんなに悦いか、凄い締め付けてくる……」
「あ……ぁ……ひぅっ!!」
琥珀の瞳は焦点を失い、口は必死に酸素を求め開く。しかし遙は一切の慈悲を与えない。匠は最奥を突かれるたび意識が遠のき、再び引き戻される。全身が激しく揺さぶられ、大量の涙が頬を伝い落ちる。遙の目に理性は僅かも残っていない。
「……俺が満足するまで……何度でもだ」
「あっ……ぁ……」
匠の声はもう、ほとんど言葉にならない。息は絶え絶えに、喉が痙攣するように小刻みに震える。瞳は宙を漂うように揺れている。熱を帯びた頬、開きっぱなしの唇、半開きの蕩けた目、全身が限界を訴えていた。
「ふふ……もう限界か?」
遙の囁きが耳奥に柔らかく届く。
「今始めたばかりだ……そう簡単に終わると思うなよ」
「あ……あ……っ……」
匠は遙の言葉に反応する事すら出来ない。手は震え、身体がぐったりと脱力する。唯一、無意識に力が入るのは脚だけ。
「……もっとだ……最後まで、俺を感じろ」
遙は貪るように唇を寄せ、涙と唾液に濡れた頬を舐め上げる。深く貫くたびに匠の意識は遠のき、戻される。
「お前は……全部、俺のものだ……」
「……やっ……あ……ぁ……」
声はもう空気の漏れる音に変わっていた。顔が真っ赤に染まりきって呼吸は浅く乱れる。
「誰にも渡さない……絶対に……」
遙の瞳には狂気と甘い溺愛が混じり合う。そして、匠の意識は限界の淵を彷徨い続けた。
「うっ……」
匠がゆっくりと瞼を開ける。視界は霞んでいて、ぼんやりとしたオレンジ色の光が見えた。
(あれ……今何時だ……)
いつの間にか、カーテンの隙間から差し込む夕暮れの光。外では蝉の声がカナカナと遠くで響いている。首を少し動かすと鈍い痛みが背中から腰にかけて広がる。全身が熱に包まれていて、呼吸もまだ不規則。
(夕方?嘘だろ……)
身体を少し起こそうとするが、すぐに崩れ落ちる。力が入らず諦めてシーツに顔を埋める。
(昨日……途中から記憶が無い……)
しかし鮮明に残る遙の跡。独占の証なのか胸元や腰、腿に残った無数の赤い痕が現実を突きつける。頬が熱くなり、浅い呼吸と共に喉から小さな声が漏れる。羞恥と快楽の名残が頭の奥で渦を巻き始める。ふと机に目をやると、遙が用意したらしい水の入ったペットボトル。その隣に置かれたスマホを取り、届いていたメッセージを読む。
【ゆっくり休め。帰ったら続きをする】
「っ……!?」
瞬間、胸がギュッと締め付けられるような感覚に陥る。目を閉じても脳裏には遙の冷たい青灰の瞳と低い声がこびりついて離れない。
(もう……嫌だっ……!)
シーツを握り締め、声にならない息を吐いた。
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