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共棲(きょうせい)
※性描写を含みます。苦手な方はご注意下さい。
遙は匠をベッドに優しく押し倒した。ゆっくりとボタンを外し、自分の着ていたシャツを脱いで無造作に投げる。その仕草すら優雅で、しかし何処か獣じみた予兆を孕んでいる。
「先に言っておく。お前から誘ったんだ……何も文句を言わないって、約束しろ」
低い声が匠の耳元を撫でるように落ちる。
「……や、約束……する……」
匠の声は震え、細い指がシーツを必死に掴む。
「……良し」
遙の口元がゆっくりと歪んだ。
「これでお前を心置き無く堪能出来るな……」
その言葉と同時に、匠を強引に組み敷く。
「……あっ……はる、かぁ……」
細かな震えが匠の全身を走る。息は荒く、思考はもう霧の中。遙は、そんな匠の姿を舐めるような視線で追い、片手で前髪をかきあげて匠の顎を固定する。
「……良い顔をしているな。焦らした分たっぷり愛してやるから、存分に鳴け……」
その声が降りた後に塞がれる唇。何度も角度を変え、匠の口内を遙の舌が這い回る。同時に、遙の手は匠の服を脱がしていく。あっという間に全裸にされ、羞恥に耐えながら目の前の口付けに集中する匠。シーツを掴む力が強まる。
「はぁっ……あっ……」
「……キスだけでそんな顔するな、これ以上俺を煽るなよ……」
低く優しい囁き。さっきまでの涼しい表情と打って変わって、眼光は妖しく光り余裕が無い。遙の荒々しい吐息が耳元にかかると、匠の肩はビクビクと震える。そのまま、ぬるりとした感触が耳に伝わる。思わず漏れる甘い声。遙の舌は胸、腹、脚へと滑り、匠の脚が開かされる。
「今日は指ではなく、舌で解してやる……」
「やっ……!やだ……汚いっ……」
「文句を言わないんじゃなかったのか?……それに、例え汚かったとしても俺が今綺麗にしてやる……」
必死にもがく匠を無視し、両手で脚を固定すると先程弄った所に舌を這わせた。もう十分過ぎるほどに濡れた孔を、丁寧に舐め上げる。唾液を含ませ、挿入時に匠が少しでも痛みを感じないように舌を動かした。体液を舐めとっているのか、唾液を塗り付けているのか、もう分からない。匠は初めての感触に、ただただ震えるだけ。遙の舌が生き物のように蠢き、指とは違う刺激に戸惑うも何故か身体は反応してしまう。
「やぁっ……やだ……あっ……そんなとこ……もうやだ……っ!」
「……慣らさないと痛いだろう……良かれと思ったんだがな……」
匠の秘部から口を離し、困った顔をする遙。糸が引いているのを見て匠は真っ赤な顔を更に赤く染めた。
「もう、そんなのいらない……はやくいれて……」
か細い声で、紅潮した頬を隠すように首を背けて呟く。それを聞いた遙の青灰の目は細まり、口角が上がる。
「今日の匠はやたらと煽ってくるな、可愛過ぎる……。では、お望み通り……挿れてやる」
「んぅ……あぁっ……!」
遙は身を起こすと、そのまま匠の中へゆっくりと熱を沈めた。匠の全身がビクンと震え、抑えきれない声が喉の奥で詰まる。
「すっかり柔らかくなったな……お前のここ。中はもう俺の形になっているんだろうな……」
低く囁き、匠の下腹部を撫でると律動を始めた。規則正しいリズムだが、深く抉るような動きに匠の身体もそれに合わせて揺れる。遙は匠の太腿を更に開き、指を食い込ませて弾力ある肌の感触を味わう。
「……ほら、もっと奥まで入るぞ……」
遙の熱が敏感な箇所を押し上げるたび、匠の呼吸は途切れ、喉がひくひくと震える。
「だめっ……だ、だめっ……あっ……!」
声を抑えようと必死に唇を噛もうとするが、あまりの強い快感に口を閉じられなくなっていた。遙は、その姿に目を細め、指で匠の顎を取る。
「存分に鳴けと言っただろう……我慢せず、もっと俺に声を聞かせろ……」
お互いの吐息が熱く混ざる。遙の腰が速度を上げて打ち込まれると、匠の脚は激しく痙攣する。
「……力を抜け。それとも、気持ち良過ぎて抜けないか……?」
遙の言葉は甘い毒のように匠の脳を蕩けさせる。更に手は匠の胸元を弄り、敏感な突起をきゅっと摘む。
「ひぁっ!……や、やだっ……んあっ……!」
声を殺せず、涙混じりの喘ぎが零れる。遙は片手を太ももの内側に滑らせ、もう片手は腰をしっかりと固定する。
「寸止めで終わらせたからか、いつもより感度が良いな。俺を締め付けて離さない……」
律動は更に早く、重くなる。空気が甘く湿り、部屋の静寂を乱す水音がいやらしく響く。匠の唇は勝手に開き、無意識に声が溢れ出る。遙は匠の口元から垂れる唾液を指で掬って舐め取り、耳元で低く笑う。
「匠……お前は最高だな……足りない……もっと欲しい……」
「ひぁっ……あ、もう……おかしくなるぅ……っ!!」
身体を仰け反らせる匠の腰を強く掴んで引き寄せた。
「……逃げるな。おかしくなって良いから、もっと奥まで、全部受け止めろ……」
吐息混じりの低い声が耳朶を這い、匠はビクリと大きく震える。
「だ、だめぇっ……もう、むりぃっ!」
弱々しく抵抗する匠の腰は、遙の動きに合わせて無意識に動いてしまう。そんな様子を見て遙は更に喉の奥で笑う。
「ほら、しっかり俺を感じろ。お前は俺のものなんだ……身体の内側から、全部……俺で支配してやる……」
「ひっ……あぁっ……やだっ……あっ!!」
匠の声は泣き声に変わり、潤んだ琥珀の瞳が遙を見上げる。
「……足りないだろ……お前も。……ここは、まだ欲しがってる……」
腰は決して止まらず、更に強く深く打ち込む。水音が激しさを増し、匠の痙攣はもう止まらない。
「あっ!……んっ、あっ!ああっ!!」
呼吸が引き裂かれ、甘い声が絶え間なく漏れる。遙は匠の手を強引に掴み、指を絡めながら動く。
「好きなだけイけ……お前が空っぽになっても終わらないがな……」
匠の瞳は焦点を失い、涙と涎が混ざる。もう理性は残っていない。
「だめ……だめぇ……でる……っ!」
言葉を吐き出すたびに震える身体。絶頂に導くように激しくなるピストン。匠の脚が力み、そのまま白く弾けるとベッドに染みる体液。遙は満足そうな表情で耳元に近づくと甘く、低く囁く。
「ふふ……俺は満足していない。まだ終わらせない……」
遙は絶頂した匠をよそに、再び執拗に腰を沈め、奥を深く突き上げる。
「何がそんなに気持ち良いのか言ってみろ……」
言葉の重みと同時に、遙の責めは更に苛烈さを増す。
「やっ……むり、むりぃっ……!」
匠の声は涙混じりに掠れ、何度も身体を痙攣させる。
「無理じゃない……言え」
遙は匠の顎をグイッと持ち上げ、瞳を捉える。途端に冷たくなる視線と声に、匠は恐怖を覚えるも、呂律が回らない。
「あっ……むりっ……やらぁ……!」
「……どうしても言わない気か……」
「いやぁ……あぁっ……いう、いうからぁ!」
舌が上手く回らない中、必死に言葉を紡ぐ匠。少し怯えながらも、奥は遙を拒めずに脈打ち、快楽を貪るように締め付ける。
「なら聞かせてくれ。何が何処に入って気持ち良いんだ……っ」
口角を歪み上がらせながら、吐息を絡めて更に自身の熱を奥まで沈めていく。
「っあ……はるかが……っおれの、なかに……はいっ、て……きもちいいっ……!……んあぁぁ……っ!」
脳髄を焼くような快楽の奔流に、匠の意識は、また白く飛びそうになる。遙は匠の背中に腕を回し、身体を潰す勢いで抱き締めた。
「……良い子だ。褒美をやろう……」
「……あぁっ!……また、でちゃうっ……ああぁっ!!」
再び深く貫く動きが繰り返されると、後に二人同時に身体を震わせ、そのまま遙は匠に覆い被さった。狂気と愛の交錯する夜は、終わりのない闇のよう。
ベッドの上には、ぐったりとした匠が横たわっていた。頬は真っ赤、目尻には涙の跡が乾いている。遙は荒い呼吸を整えながら、乱れた自分の前髪をそっとかきあげる。
「もう深夜だ。匠……良く頑張ったな……」
「はっ……はぁっ……」
弱々しく、でも確かに聞こえてくる匠の呼吸。
「っ……なめんなよ……!」
細い声で強い言葉を放つが、甘く震えて消える。遙はその様子を満足げに見つめると目を細めた。
「……大丈夫か」
問いかけながらも返事を待たずに匠の頬に唇を落とす。匠の身体は小さくビクリと震えるだけ。もう声も出せないほど、限界まで搾り取られていた。しかし根性で何とか声を捻り出す。
「おまえ……せめてうがいしろよ。……あんなとこ、なめたあとで、キスなんかすんなよ……バカ」
遙は自分の喉を鳴らして、僅かに笑う。
「……細かいな。お前に汚い箇所など無い。それより、今夜はこれで終わりだ。……多分、な」
そう呟きながらも、まだ余裕を残した遙の瞳が匠を舐めるように見つめていた。匠は微かに首を横に振り、抵抗の意思を示そうとするが、その仕草さえ遙の欲を煽る火種にしかならない事をもう、匠自身も分かっている。
「ずっと言おうと思っていたんだが……匠、俺と一緒に住もう」
「……は?」
遙は立ち上がって、書斎の部屋に消えたと思ったらすぐに戻ってきて、匠の手に鍵を渡した。呼吸がまだ落ち着かず、困惑の色を浮かべる匠。遙をチラリと見ると静かに微笑んでいる。これを拒否したら殺されるのかと思いつつ、手渡された鍵をギュッと握った。
「ここからなら大学も、バイト先も近いし行きやすいだろう」
「いや、でも……」
「何より、お前と片時も離れたくないんだ、俺が」
遙の圧力に負けそうになる。だが、匠は幾つかの懸念点がある事に気づく。
「や、家賃はどうすんだよ……食費もあるし、学費だって……つうか、俺の今住んでるアパートだって……」
思い詰めた様な表情をする匠を見て、遙はフッと笑った。そのまま匠が横たわるベッドに座り、茶色の柔らかい髪を梳くと優しい声で話す。
「……心配するな。俺が全部何とかする。だからお前は余計な事を考えず、ここで俺と住むんだ」
「そんな……だって俺……」
「何がそんなに不安なんだ……俺と暮らすのが嫌なのか?」
「ち、違うっ!」
少し寂しそうに呟いた遙に、食い気味に否定する。匠は涙を滲ませ、震える手で鍵を握り締めた。
「め、迷惑だろ……色々と。学費は、ちょっと恥ずかしいけど親に払って貰ってるけど、それ以外は皆自分で何とかやり繰りしてたんだ……その、上手く言えねぇけどさ……」
小さな声で一生懸命に言葉を繋ぐ匠が愛しくて、遙は思わず匠の身体を起こすと抱き締めた。首元に顔を埋めると跳ねた襟足が顔に当たりくすぐったそうにする遙。
「余計な事を考えるな。俺が良いと言えば良いんだ。お前に拒否権は無い。……だから、俺と一緒に暮らそう」
「っ……!」
遙の必死の声に、匠の頭の中は揺れ動く。よく分からない男としてのプライドと、ここに住んだらもうカップラーメン生活からの解放。たまに自分へのご褒美でコンビニスイーツ。それらが天秤に掛けられ、左が沈んだり右が沈んだりしていた。整理が付かないまま、それでも何かしら言おうと口を開いてみせるが、言葉が出ない。
「今日からここが、お前の家だ……良いな?」
遙の青灰の瞳は切なげにゆっくりと細められ、匠の琥珀の瞳をまっすぐに射抜いた。そのひたむきな眼差しに、たじろぐ匠だが視線は逸らさない。そして、か細い声で答える。
「よ、よろしくお願いします……」
匠の蚊の鳴くような声に、遙の表情がふっと緩む。青灰の目が確かに微笑んでいるのが分かる。
「……あぁ。こちらこそ、宜しく」
そう言って遙はもう一度匠を強く抱き締める。苦しくなるほどの力で、でも何処か優しさを含んで。匠は小さく咳き込みながらも、その胸板を押し返そうとはしない。
「ちょっと、力強過ぎ……潰す気かよ……」
遙はその言葉を受け流すように匠の髪に口付けた。頬を撫でる手は熱を持っていて、安心という名の支配に包まれるようだった。そして、匠がその手に頬を擦り寄せた時、遙はそっと耳元で囁く。
「今日からは、ずっと一緒だ。一生離さない……お前は俺のものだ」
匠は答えなかった。でも、その胸の奥では不思議なほど温かな何かが、静かに灯っていた。
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