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#Twelve
広い庭には障害物もない。それなのに影は突然現れた。これはいったいどういうことだろうか。疑問に思った紅緒が顔を上げれば、そこには眉間に深い皺を刻んだティボールトの姿があった。
「咳が酷いな。風邪か? 顔も青白い。今日の仕事はしなくていいから休みなさい。ぼくの部屋を使ってくれてかまわない」
「へっ、平気です! 庭の手入れがありますから」
彼に手を差し伸べられ、紅緒は逃げるようにしてほぼ反射的に重い腰を上げた。
しかしいくら紅緒がやせ我慢をしても身体は正直だ。反射神経は鈍っているし、平衡感覚も狂っている。勢いよく体勢を変えたものだから、紅緒の身体が前のめりになった。
転げると覚悟した紅緒だが、もやしのように痩せ細った軟弱な身体はすぐにたくましい腕に支えられた。
「こんなに身体が冷たいのに君はまだ仕事をするつもりなのか?」
低い声が紅緒を責めた。
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