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#Fifteen
「妻はもういない!」
呻るようなずっと低い声が広い庭に木霊する。
その声は痛ましく、紅緒の胸を貫いた。
「……いないんだよ、紅緒」
もう一度口を開いて告げた言葉は今にも窒息してしまいそうになるくらい苦しそうで、まるでティボールト自身に言い聞かせるようだった。
はっとして顔を上げれば、揺るぎない蒼の目が紅緒を射貫いていた。
紅緒が恋して止まない力強い彼の眼差しが目の前にあった。
(でもどうしてそんな目でぼくを見る?)
なぜ、情熱的な目で紅緒を見るのか判らない。
ティボールトに掴まれた両肩が熱を孕んでいく。
「お願い、離して……」
ティボールトからの熱視線を受ける紅緒は、もうどうしていいのか判らない。
それでも紅緒は力なく身を捩り、どうにかして彼から逃れられるよう働かない頭を回転させる。
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