19 / 28

#Nineteen

 いい大人がいつまでもぐずぐずと泣いているなんてみっともない。どうにかして涙を引っ込めようとするのに、しかし三十年という長い恋心を抑える術はない。  紅緒の傷つきすぎた心は悲鳴を上げ、限界を越えてしまった。  紅緒はたくましい胸板に顔を埋め、泣き崩れる。  すると今まで黙っていたティボールトは、静かに口を開いた。 「……紅緒、ぼくは君を愛している。君への恋心を理解してからこの三十年間、ずっとだ」  彼が口にしたそれは嘘だと紅緒は思った。 「ふざけないでください!」 (ティボールトがこんな、もやしみたいなぼくに恋をしていただって?)  いったいどの口がそれを言うのか。  美しい女性と結婚し、身を固め、自分に見向きもしなかったのは彼だ。  首を振る紅緒を抱き締める彼の腕の力がずっと強くなる。

ともだちにシェアしよう!