「レン、お待たせ～」 ふわりと漂う湯気とあたたかな香り。 ダイニングテーブルにお皿を置いた瞬間、眠たげだったレンの目が大きく開く。 目の前に現れたのは、赤いスポーツカーの形をしたプレート。 ケチャップライスには小さな旗が立ち、ミニハンバーグに星形のポテト、ブロッコリーとにんじんの彩りサラダ。 そして、星型にくり抜かれたハムやにんじんが泳ぐコンソメスープ。 まるでひと皿の中に、椋のやさしさがぎゅっと詰まっているような――そんなお子様ランチ。 レンはキラキラした目でプレートを見つめたまま、ぴくりとも動かない。 その様子だけで、椋にはすぐにわかった。 「うれしい」のサインだ。 「気に入った？　かっこいいでしょ、車のプレート」 レンはぶんぶんと首を縦に振る。 このプレートも、レンを喜ばせたくて買ったものだった。 「それからね、ごはんの前に、プレゼントがあるんだ」 椋が差し出したのは、クリーム色のコットンスタイ。 真ん中には、丁寧に刺繍されたゴールデンレトリバーのワンポイント。 最近刺繍にハマって、少しずつ手作りしたものだった。 「じゃんっ！ わんわんの刺繍、僕が作ったんだよ」 レンの顔がぱっと明るくなる。 「つけて！つけて！」と両手を広げておねだりする姿は、まるで小さな子どもみたいだった。 椋がそっとスタイを首に巻いてあげると、レンはくすぐったそうに肩をすくめながら、スタイをなでなで。 嬉しそうなその顔に、椋もつられて笑ってしまう。 「うん、すごく似合ってる。かわいいね、レン」 そして、ふたりは手を合わせる。 「手を合わせて～」 「いただきます！」 「どれから食べたい？」 椋の問いかけに、レンは迷わずケチャップライスを指差した。 「はい、あーん」 スプーンを差し出すと、レンは素直に口を開けてぱくり。 「おいしい？」 小さくこくんと頷くしぐさに、椋の胸にふわっと達成感と安堵が広がっていく。 レンがもぐもぐと頬を動かしているタイミングで椋も自分のごはんを口にする。 同じ時間に、同じものを食べている。それだけで、どこかやさしくて、しあわせな味がした。 ゆっくり、ゆっくり時間をかけて。 お子様ランチはすべて、レンのお腹のなかへおさまった。 「えらいね。いっぱい食べて、すごいね」 頭をやさしく撫でると、レンは目を伏せて、その手のぬくもりにじっと身を預けた。 静かであたたかな夜の食卓。 言葉は少なくても、満ち足りた空気がそこには流れていた。 「手を合わせて～」 「ごちそうさまでした！」