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04 ルーティン③ いっしょにねんね〜お星様がみてる〜
食後、ふたりはそっと寝室へ向かった。
寝室の扉をゆっくり開けると、部屋の中央には木のぬくもりを感じる大きなベビーサークルが鎮座していた。
中にはふかふかの布団。愛らしいぬいぐるみたちが、ふたりの到着を今か今かと待っているように並んでいる。
明かりを消すと、天井にはやさしい星の光が浮かび上がった。
おもちゃのプラネタリウムが静かに回り始め、青白い光とオルゴールの音色が、寝室をそっと包み込んでいく。
ふたりは肩を寄せながら、そっと布団にくるまった。
小さな星空を見上げながら、椋がやわらかく声をかける。
「レン、今日はね、これを読もうと思って」
手に取ったのは、何度も読み返してきたお気に入りの絵本。
くたびれた表紙が、ふたりの歴史をそっと物語っていた。
「むかし、むかし。あるところに――」
ページをめくる音と椋の穏やかな声が、星の光に溶けていく。
レンはその声に導かれるように、ゆっくりとまぶたを閉じた。
くま耳パジャマのまま、枕に頬を寄せて、すうすうと寝息を立てる。
椋はそっと本を閉じ、レンの寝顔に目を細めてつぶやいた。
「……よかった。顔色、戻ってきたね」
俳優・朝比奈レンが限界を迎えたときの“おやすみルーティン”。
物語の終わりとともに、ようやく椋の一日も一区切りつく。
椋は洗面所で自分の髪を乾かし、それからキッチンへ。
使った食器やフライパンをひとつひとつ丁寧に洗い、布巾で静かに水気を拭っていく。
――傍から見れば、きっと“普通”ではない。
けれど、椋にとってはそれが幸せだった。
レンが羽を休められる場所であること――それが、なによりも嬉しくて、大切なことだった。
すべてを終えて寝室に戻ると、ベビーサークルの中で、レンが小さく丸くなって眠っていた。
椋はそっと隣に入り込み、その髪にやさしくキスを落とす。
「……おやすみ。僕の、かわいいレン」
耳元でささやいた瞬間、まつげがかすかに揺れた気がして――
椋はそっと微笑んだ。
星が静かに巡る夜。
ふたりは寄り添いながら、穏やかな夢に沈んでいった。
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