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06 ふたりの過去② ふたりの夢と旅立ち

高校生になり、レンはモデルとしてスカウトされた。 最初はバイト感覚で参加していた雑誌の撮影。 気づけば撮影に呼ばれることが増え、雑誌でもメインを飾るようになっていた。 カメラの前に立つたび、レンはどんどん垢抜けて、かっこよくなっていく。 その変化に、椋は何度もドキッとさせられた。 当然、そんなレンを放っておく人なんていなくて。 女の子から告白されることも、よくあった。 それでもレンはいつだって、椋との時間を一番に優先してくれた。 「知らない女子より、椋といたいよ」 そんなふうに、当たり前みたいに言ってくれるのが、嬉しかった。 疲れた日は「ぎゅってして」と抱きついてきて、 椋がハグすると、安心したように笑う。 それだけで椋の胸は、優越感と幸福でいっぱいになった。 やがてレンは「俳優になりたい」と夢を語ってくれた。 最近挑戦した演技の仕事に刺激を受けたらしい。 「演技するの、すごく楽しいんだ。……それに、母さんを楽にさせたいしね」 その横顔は、真っすぐで、揺らぎがなくて―― 椋は、胸がぎゅっと締めつけられるような気がした。 「レンなら、絶対できるよ。モデルのときも、演技してるときも、誰より輝いてる」 「俺、まだ端役しかもらえてないのに……。そんな風に言ってくれるの、椋くらいだよ」 ふたりで笑い合ったその日が、やけに眩しく思えた。 椋は春から、保育の短大に進学する予定だった。 子どもが好きで、保育士になるのは小さな頃からの夢だった。 「卒業したら……すぐに抱きしめてあげられなくなっちゃうね」 ぽろっと漏れた言葉に、レンは目を伏せて――少しだけ、寂しそうに笑った。 「……うん。でも、俺ももう大人だし。大丈夫だよ。椋にばっか頼ってたらダメだから。俺、頑張ってみる」 その笑顔に、ほんの少し胸がざわついた。しっかりしようとする姿が、どこか無理をしているようにも見えたから。 **** 卒業式の帰り道。 並んで歩いていた椋は、校門を抜けたところでふと足を止めた。 「……ねえ、レン」 呼びかけにレンが振り返ると、椋はそわそわした様子で紙袋をまさぐる。 「これ……作ったの。よかったら、もらってくれない?」 差し出されたのは、テディベアくらいのサイズのぬいぐるみ。 淡いベージュ色のふわふわした生地。つぶらな刺繍の目。 どこか椋に似た顔立ち。 「これって……」 「うん。これからは、もうすぐにレンのこと抱きしめてあげられなくなるから……。だから、その……僕の代わりに、そばに置いてもらえたらって……」 思いを口にした途端、血の気が引いた。 作っているときは無我夢中で気づかなかったけど……。 (……ちょっと待って?男が男にぬいぐるみって、普通にヤバくない?いやいや、引かれるって……) 「ご、ごめん、やっぱ返して!変だよね!きもちわ――」 「やば……めっちゃ嬉しい!」 椋が慌てて手を伸ばすより先に、レンの腕が伸びてきた。 ぬいぐるみごと、椋のことまでぎゅっと抱きしめる。 「え、ほんとに? キモくなかった?」 「ぜんっぜん。むしろ最高。……俺、けっこう不安だったんだ。これがあれば、ちゃんと頑張れそうな気がする」 震える声、いつもより少しだけ強い抱擁。 強がっていたけれど、レンは不安と戦っているんだ。 「椋、ありがとう。……ほんとに」 「うん。……よかった……」 ベアの柔らかさと、互いのぬくもりを挟んだまま。 ふたりはしばらく、静かに寄り添っていた。

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